「思いのほか良い映画だった」ゼロ・ダーク・サーティ myshaさんの映画レビュー(感想・評価)
思いのほか良い映画だった
細身美人+屈強な男の組み合わせでの水責め尋問から始まったので 、 “ 大事なのはアメリカ合衆国とアメリカ人だけ、アメリカの正義のみが絶対正義! ” の映画かまた…と半ばうんざりしながら見始めたのだけれど、そこまでマンネリではなかった。
事実を骨に物語で肉付けし、思うにまかせない対敵諜報活動を淡々と描く。
共にテロリストを追う中で育った仲間たちとの友情、掴んだと喜んだ瞬間自爆攻撃を受けて命を落とす友人、敵を確保できる確信があるのに動かない上司・組織・国。つのる苛立ち。
それでもやっと思いを遂げる時が来て特殊部隊が突入するが、選抜され訓練された経験豊富な彼らもまた心を持つ人間である事が端々に描かれる。
暗視ゴーグルからのフル装備でステルスヘリに搭乗という圧倒的有利さで隠れ家を急襲し、一人目の男をなんなく撃ち殺し妻を取り押さえた後すぐ奥にいた子供たちに「大丈夫 怖くない」と声を掛けるまぬけな善良さ、「子供を頼む 奥を見せるな」と仲間に声を掛ける無駄な優しさ。「イブラヒムが撃ってきたんで仕留めた」「俺はアブラルと女房を撃った」と延べ合い「悲惨だな」と思いを一致させる屈強の戦士たち。
己の果たした役割の大きさに呆然とし、命を失い床に転がる敵や残されて泣く子供たちに必要以上に長く視線を留めてしまったSEALDsの男。
彼らはこれから記憶と共に生きなくてはならない。
それが“アメリカの正義”の下に輝くミッションであり相手がテロリスト集団であったとしても、引き金を弾き人を殺したのは彼らだ。
そして主人公は一人の男に焦がれて追い、想い叶って殺した後、何も知らない陽気な男に「あんたVIPだね!あんた用の専用飛行機だよこれ。そんでどこ行くの」と尋ねられ静かに涙を流す。
彼女は“クォ・ヴァディス”と問われたのだろうか?
イスラム教とキリスト教の中心にある神は同じ。同一で唯一だ。イスラムのテロリストを殺したキリスト者はどこへ行くのだろう。
それにしてもやっぱ「神と祖国のためにジェロニモ確保」はもんのすごくヒドイ。コードネーム・ジェロニモはダメだろと突き上げが強かったらしいが、我こそが正義と信じる多数派の無邪気さを幾重にも表す良いセリフだと思う。アメリカっぽさ満点!(^_^;)
