「最も卑劣で効果的な。」ゼロ・ダーク・サーティ ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
最も卑劣で効果的な。
またしてもこの時期に^^;
アカデミー賞戦を割るように突っ込んできたK・ビグローの最新作。
前作ハートロッカーで、その手腕を知らしめてしまった女性監督は、
ビンラディン殺害計画の内幕を(証言に基づいて)全面暴露している。
…大統領選を控えた政権陣営が震え上がったのは言うまでもない。
娯楽性を欠いた作りにはファンが期待するようなドラマはないし、
ひたすら(真実を)語る切り口に観応えをどう得るかは様々だと思う。
結局アメリカはアメリカだった。と、やっていることはそのものだ。
それを当たり前のように突きつけてくる話であり、爽快感などない。
アメリカ万歳!的な作りになっていないことは分かるが、
今作のテーマは主人公マヤの孤独な闘いであり、やはり復讐戦だ。
CIA分析官という特殊な任務に就く彼女にとって、そこに個人的な
感情や執着(他のチーム員同様)は持ち合わせていない冒頭だが、
その後の進まない捜査の進展、同僚がテロに巻き込まれ殺害される
という脅威を経て、彼女が段々強い執念を帯びてくるのが分かる。
(上司への強い苛立ちは迫力満点。狂気が決断を促したってことね。)
風化されかけた(言い方が悪いけど)凶悪テロの犯人を執念を持って
捜査するためには、莫大な資金と忍耐力が必要になってくるが、
どうしてそんなに執念を燃やせるのかを考えると、やはり個人的な
恨み・辛みが一番になると思う。というよりそれがなければできない。
その先に待つものが何だとか、それをやればどういうことになるか、
そんなことは分かっていても必ず報復を遂げるのが最強国の使命で、
彼女に与えられた任務なのだから、致し方ないのである。
…というのを最後の最後まで、まざまざと体感させてくる作品なのだ。
ちなみに女というのは、勘が鋭い。これが、けっこう当たる(爆)
いや、本当に笑いごとではなくて、これって実際にあるんだと思う。
だから夫の浮気とか(例えが悪い?)鼻が利くんだろうと思う。そういう
動物的な生理現象にきちんと耳を傾けてくれる組織であるのは有り難い。
とはいえ、確信が持てない潜伏先に100%!って言える自信も大したもの。
物事を決めるまではウダウダと悩んでも、一度決断したら梃子でもその
意思を曲げないっていう、頑なな意思表示も女ならでは。
あのビンラディンの最大の弱点は、鼻が利く女。だったのね。
(あれだけ用心して潜伏してるのに、見つかる時はアッサリだもんね)
バカな男共(ゴメンね)は、人質を拷問にかけて仲間の名を聞きだすが、
肝心なものはそんなところから出てこない。
ところであの拷問、K・ローチのルートアイリッシュでも使われていたが
ああやってタオルで水責めにした方がプールに沈めるより効果的らしい。
う~、やだ、こんなことまで知ってしまった。。
淡々と進行する作戦のクライマックスは何といっても突入シーンだが、
個人的には思ったほどスリリングではなかった(前作よりもまったく)
これはどうしてか、と考えると作りものではないからか?と思った。
ネイビーシールズが着々と作戦を遂行するカッコ良さがウリなのではなく、
ブラックホークが墜落したり、施錠が開かず何度も爆破を繰り返したり、
(あれでよく3階まで辿りつけたと思う)
家族とはいえ民間人を次々と射殺してトドメまで刺す描写のリアルさに
これが本当の「作戦遂行」場面なのだ、と面を喰う。
寝込みを襲うという、最も卑劣ながら最も効果的な殺害方法を遂行した
といえば、日本でも歴史に名高い「討ち入り」や「変」があるけれど、
一度で確実にやり遂げるため、そういう手を使うのは万国共通だったのね。
ぞんざいに置かれた死体袋に近づき、確認するマヤの顔に笑顔はない。
達成感も高揚も感じさせないその表情に、今作の言いたいことが分かる。
操縦士の「アンタ、どこへ行きたいんだ?」に応えず、泣き崩れるマヤ。
やっとここで彼女の人間的な一面が垣間見えるが、これで終わりじゃない。
(現在も任務についているマヤの背景は、やはり何も語られなかったねぇ)