「絶対的なインパクトが有り、迫力は感じるが、それだけで終わってはならない!」ゼロ・ダーク・サーティ Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
絶対的なインパクトが有り、迫力は感じるが、それだけで終わってはならない!
本作品は世界的テロ組織アルカイダの主犯格の暗殺作戦が実行される迄のプロセスを描いて行く、超一級のサスペンス大作映画と言う事が出来るだろう。
確かに、2001年の世界同時多発テロと言うあの事件はまぎれもなく世界の多くの人々に多大な衝撃を与えた事件だった。
しかし、アメリカのその後に続く、アフガニスタン侵攻やイラク戦争へと事はエスカレートして戦争が発展し、多大な被害を世界中に出し続けていった。
その事で多くの罪無き一般市民が空爆などで亡くなって、この911テロの被害より報復戦争による被害の方がその数百倍もの被害を出し続けている事実を決して忘れてはいけない。
それだからこそ、この911事件の真相究明は大切な問題だと思う。
その根源的な世界同時多発テロを企てた主犯格の男こそ、オサマビンラディンと言うわけだが、出来る事なら、アメリカのCIAには、オサマビンラディンを生け捕りにして、国連法によって、その犯行の全貌を明らかにして、この男を国際連邦の裁判に因って刑に処する事を計画して欲しかったと個人的には思っていたのだが、残念な事にオサマビンラディンの逮捕は現実には起きなかった。
この映画でも描いているように、CIAの調査なども、担当当局の人間関係や、その人達の個人的な、仕事の立場や面子と言う事柄までも絡んでくるし、その時代の政治や政治家達との連動などによって、真実公正なる正義の名の基で、真相究明目的のみの為に事件の解決への目標が設定される事は無い、真実究明の足掛かりとしてのオサマビンラディン逮捕が行われる事は無いと言う真実を描き、その現実社会の構造的問題を含んで描いている点は、本作品が単なるCIAのプロパガンダ映画として終わっていない唯一の救いである。
しかし、この映画がアカデミー賞候補となりまた世界的な規模のマーケットに乗って順次この作品が公開されていったとしたら、あの「96時間リベンジ」の映画の様に、テロ組織の痛恨を煽る事にはなりはしないかと、正直恐くもある。
国際テロ組織は絶対に無くなって欲しいし、日本ばかりでは無く、世界中の何処の国であっても、テロ事件は絶対に起きて欲しく無いものだ。
そう言うテロ組織との憎しみの連鎖は、一体、何時・何処で解決する事が出来ると言うのだろうか?
日本でも戦国時代、戦では敵の一族は皆殺しする事で、報復を阻止して来たけれども、必ず武力に因る制裁は、報復というリスクを追う事になるのが世の常であるし、現実的には実態の特定が出来ない国際テロ組織なるものの、関係者の取り締まりや、ましてやその関係者による、憎しみの連鎖の阻止など、アメリカ政府は今後どう解決していくのだろうか?
この作品は今後起きるかも知れないテロ事件のリスクに対する多くの不安を煽る映画でもある様に感じた。この作品の監督キャスリン・ビグローは世界の平和を願ってこの作品や、「ハートロッカー」を制作した事だろう。彼女の願いが天に届き、私達の暮す地球に、テロ事件や戦争と言う人災が起こる事の無い事を願って止まない。彼女と脚本家のマーク・ボールには今後楽しい映画を制作して平和を実現して欲しいと願っている。