「迫真力に満ちた力作だが、詰まるところは米国のプロパガンダ映画?別視点からの作品も同時に観ることをお薦めします。」ゼロ・ダーク・サーティ グランマムさんの映画レビュー(感想・評価)
迫真力に満ちた力作だが、詰まるところは米国のプロパガンダ映画?別視点からの作品も同時に観ることをお薦めします。
こんにちは。
グランマムの試写室情報です。
『ゼロ・ダーク・サーティ』★★
オスカー作品賞ほか、5部門ノミネートされ、最有力候補と言われている本作。
GG 主演女優賞をジェシカ・チャスティンが受賞するなど、多くの映画祭で最高の評価を受けている。
ストーリーについては、多くの皆さんが既にご存知と思うのて、ネタバレも気にせず書いてゆく。その辺、ご容赦願いたい。
9.11の首謀者と目されるオサマ・ビン・ラディン捜索調査に関わったCIA 女性捜査官が、作戦の遂行の中心人物だったという事実。
それを知ったキャスリーン・ビグロー監督と脚本家の『ハート・ロッカー』コンビが、極秘事項だった全貌をサスペンスタッチに仕上げた作品だ。
断っておきますが、政治情勢に関しては疎いし、知識もない、純粋に映画を語りた いがために、記している日記だ。
なので、これから書く内容について、異論反論の向きもあろうが、政治的な反論に関しては、ご容赦願いたい。
冷戦終結後、予算削減されていたCIA が、9.11同時多発テロを機に、復活した。
若い優秀な分析官が登用され、その1人が本作の主人公マヤだ。赴任するなり、捕虜の水責め拷問場面に立ち会うが、あまりの惨さに目を背ける。
ところが、その後、眠らせない、強力な光を当て続ける、爆音で音を聴かせ続ける(注:本作にはないが、ウィンターボトム監督、ドキュメンタリーなどで散見)といった“身体に痕跡を残さない”やり口で、吐かせるのだから、冒頭の目を背ける表情も偽善に映る。
同僚(ジェニファー・イーリー『高慢と偏見』などで好演)たちが、自爆テロの犠牲になり、死んでしまうに至り、執念的に追い始める。
莫大な予算を要したにも関わらず、ビン・ラディンの消息情報すら得られない現状に、CIA はプレッシャーをかける。
人為的ミスにより、要注意人物のリストを見逃す失態を犯すチーム。マヤは、独自調査と無謀とも言える追跡を重ね、潜伏先の邸宅を突き止める。
だが、国からの実行ゴーサインがでない。イライラを隠せないマヤ。ビン・ラディン捕獲作戦の実行部隊は、ネイビーシールズだ。
大統領への直訴が実り、2011.5.1、深夜0時半(ゼロ・ダーク・サーティ)作戦は実行される。レーダーに映らないステルス型戦闘機に乗り込む隊員に、マヤは言う。
「私のために殺して!」
殺す??捕獲作戦じゃないの?殺害作戦だったの?と思いながら観ていくと、屋敷に潜入した隊員たちは、無抵抗な寝間着姿の男女たちをバンバン殺して行く。
目の前で、両親、家族を殺され、恐怖に泣き叫ぶ子どもたち。
ついにビン・ラディンを見つけ出した隊員たちは、躊躇なく撃ちまくる。やはり、殺害作戦だったのだ。
手柄を立てた、と賞賛され、たった1人で専用機を仕立て、帰国するマヤに、笑顔はない…。
プレスシートには、“狂気を孕んだ執念で”と書かれているが、マヤは終始、正気のままだったように映った。
ビン・ラディンを、9.11同時多発テロの首謀者と断定し、作戦を実行した米国。
素朴な疑問として、裁きは国際裁判で司法の手に委ねるのが、本来ではないのか??殺したら真相は分からない。
生きたまま捕獲し、喋られたら困ることでもあるのだろうか??政治に疎い自分でも、この作戦には、素朴に疑問感を持つ。
ハリウッドだから、自国の立場で製作するのは、仕方ない。だが、昔から世論を喚起するほどの批判精神旺盛な米国映画は、どこへ行ったのか??
作品のクォリティーについて、語りたい。
キャスリーン・ビグローは、第一作目の『ニア・ダーク/月夜の出来事』から魅了されていた監督だ。
ヴァンパイアの世界をリリカルに描き、月夜に浮かぶ儚い恋物語を紡ぐ映像美は見事だった。
続く『ブルー・スチール』『ハート・ブルー』『ストレンジ・デイズ』とも、透明感があり、グラマラスな映像で楽しませてくれた。
前作『ハート・ロッカー』でも、冒頭のハイ・スピードカメラには、圧倒的な映像の喚起力があった。
本作では、その豊かな表現力が、いつ観られるのかと期待するも、平凡な映像の連続。
強いて言えばラストの緊迫感溢れる深夜の捕獲作戦場面にみられるが、前述したように、武装していない無抵抗な女の人まで、次々と撃ち殺していくのだ。
上手く撮れていても、気分が良い訳がない!
問題作であることには違いないが、結局のところ、「捕まえた〜!撃った〜!殺した〜!」という単純な闘争本能に訴えるプロパガンダ映画になっているとしか思えない。
本作と、同じくオスカー候補の『アルゴ』しか観ないとすると、観客の世界観は、どうなってしまうのだろう。
様々な視点から、世界を捉えることのできるのが、映画の良さだ。本作を観た人には、同時にマイケル・ウィンターボトム監督作『グァンタナモ 僕たちの見た真実』、そして『スタンダード・オペレーティング・プロシージャー アブグレイブ刑務所の証言』も、観ることをお薦めする。
『グァンタナモ〜』は、パキスタン系の英国人が、アルカイダのテロリストに間違えられ、過酷な拷問を受けた事実を、『スタンダード〜』は、米軍によるイラク人捕虜虐待の真相に迫った力作である。
確かに、9.11は米国にとって衝撃で あり、それを引き起こすテロリ ストへの警戒心があるのは理解できる。
し かし、それが法を適用せずに虐待行為を引き 起こし、首謀者と目した人物を殺害してよいという理由にはならない。
オバマ大統領は、これらの収容所閉鎖を打ち出したが、未だに達成できていない。
私たち日本人にとって、友好関係にある米国だが、エンターテイメントの世界観は、国際的な視野に立って観ることを忘れることなく、オスカーの行方を注視したい。
本作は、2月15日から全国公開されます。