「啓蒙から憎悪へと変化する米国社会の空気」ゼロ・ダーク・サーティ 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)
啓蒙から憎悪へと変化する米国社会の空気
2001.9.11同時多発テロ後の米国によるアルカイダ報復は、2011年のビンラディン殺害まで執念深く続けられるのだが、その中心を担ったのがCIAだった。
2012年の本作と、2019年の「ザ・レポート」の2作は、このCIA活動を表と裏の両面から描いていて、何とも興味深かった。
殺害の翌年、アカデミー監督ビグローの撮った本作は、ビンラディンの所在地を突き止めようとするCIA、特に女性エージェントの活躍に的を絞り、冒頭でアルカイダ構成員に対する拷問を延々と描き、ビンラディン殺害シーンで幕を閉じる。前作「ハートロッカー」と同様、この作品も観衆から大きな支持を得て、アカデミーはじめ主要映画賞に多数ノミネートされ、そのいくつかを受賞したのである。
それから7年後、今度はCIAの拷問を摘発する「ザ・レポート」が公開された。こちらはCIAが世界を股にかけて、秘密施設でアルカイダ構成員を全裸で監禁、水責め、直腸に水分注入など、かなりエグい方法で拷問したことを摘発する上院情報特別委員会スタッフの活躍を描いている。
「ゼロ~」とはまさにコインの表と裏の関係だ。この作品も高い評価を得はしたが、「ゼロ~」ほどではなかった。映画賞も受賞することはなかった。
2作品とその評価を見ると、同時多発テロ以後の米国の雰囲気が、かつての外部世界に対する人道的啓蒙的なもの重視から、外部の敵に対する憎悪に変容してきたことをひしひしと感じさせられる。
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