劇場公開日 2013年5月25日

「人生いろいろ 人生これから」百年の時計 マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0人生いろいろ 人生これから

2013年6月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

笑える

幸せ

この作品との出会いは、1ヶ月前、とある映画館にたった1枚残っていたチラシがきっかけだ。地味なタイトルとスチールの組み合わせでそそるものがないが、どこか誠実そうな印象を受けた。

ミッキー・カーチスとローカル線を走る電車に惹かれて観に行った。
「ガメラ」や「デスノート」など特撮を使った大作を手がけてきた金子修介監督らしからぬ“あらすじ”にも興味があった。

「ことでん」の愛称で鉄道ファンからも親しまれる香川県・高松琴平電気鉄道の路線開通100周年を記念したご当地ムービーでオール香川ロケだが、観光PRフィルムみたいでないのがいい。この手の映画は、その地の観光スポットだの名産だの年中行事の絵が挿入されがちだ。そうしたロケ地へおもねいたところが極力切り捨てられているところに好感が持てる。

ミッキー・カーチスが創作意欲を失くした老芸術家・安藤、木南晴夏がその安藤を尊敬する学芸員に扮し、かなり年齢差があるコンビを組んでの人生再考物語だが事はそう単純でもない。
安藤が長年所持する懐中時計に秘められた過去を手繰るラブストーリーでもある。
過去の二人が醸し出す不思議な時空感に魅了される。

その懐中時計が作られてから100年、「ことでん」が走り始めてから100年、この2つが見てきた日本の歴史、町の変遷、人々の営みを綴りながら、過去あっての現在、そして未来への展望を静かに、そして豊かに語る。
観る者の心を真っ直ぐ見据えた作りは、チラシから受けた印象と同じく誠実感が漂う。

安藤の言葉通りアートとは肩肘張ったものではなく、「ことでん」のように生活に身近な存在を利用し、しかもゲストの人生に直接訴えかける表現方法は興味深い。もっとも、この映画そのものが一大インスタレーションといえる。観てよかった。

惜しむらくは、ラスト近くで「ことでん」に並んで座る二人の位置が左右逆ならよかった。時間を超えた想いが変わらないのであれば、座る場所も変わらないほうが絵的にしっくりする。

マスター@だんだん