「苦しめるのは過去の自分」マーサ、あるいはマーシー・メイ arakazuさんの映画レビュー(感想・評価)
苦しめるのは過去の自分
何故彼女がマーサとしての居場所を失い、カルト集団に身を寄せることになったのか?詳しい事情については何の説明もない。
ただ分かるのは彼女がそこで人生をやり直そうと思っていたこと。彼女はそこでマーシー・メイという名前を与えられ役割を見出し、居場所を得る。しかし、そこは安住の地でもなく、とどまるべき場所でもなかった。
一見アーミッシュ的な平和な拡大家族にさえ見える集団の邪悪さは、彼女の記憶と共に徐々に明らかになる。
男性だけが先に済ませる食事光景、儀式という名の性的虐待(女性だけでなく男性も儀式を通過させられる?)、男の子しか生まれないというリーダー、パトリックの子供(そもそもパトリック以外の男性の子供はいるのか?)、盗みだけでなく殺人さえも肯定されてしまう歪んだ倫理観。
其処では、リーダー、パトリックの言うことがすべて。皆彼に認められたいのだ。
これに耐えられなくなったということは、まだ彼女は正常だという証拠なのだが、その記憶は彼女を不安定にさせる。マーサに戻ったつもりでも、彼女の中にはまだマーシー・メイが存在しており、時折顔を出すのだ。
マーシー・メイとしての自分自身、マーシー・メイとして生きた二年間の記憶が彼女を苦しめる。
彼女は二人の自分に引き裂かれてしまう。
この難役に挑んだオルセン姉妹の妹、エリザベス・オルセンが素晴らしい。あどけない純粋無垢な少女の表情を見せたかと思えば、次の瞬間には人生に疲れた中年女の倦怠感をも感じさせる演技はとてもデビュー作とは思えない。
救世主にも悪魔にも見える危険なカリスマリーダーを演じたジョン・ホークスはさすがの存在感。
二人の自分に引き裂かれるマーサを表現した日本語タイトルも良かったと思う。