「ストリープとジョーンズのなんと息の合っている演技なのでしょうか。どう見ても本物の夫婦に見えてしまいます。」31年目の夫婦げんか 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
ストリープとジョーンズのなんと息の合っている演技なのでしょうか。どう見ても本物の夫婦に見えてしまいます。
★★★★★特選
本日『少年H』試写会とかぶり迷いましたが、こっちを選んで正解でした。よく練られた脚本とふたりの名優の共演が、倦怠期を迎えた夫婦の再生するというシンプルなお話しを、絶妙な間合いで演じて見せたのです。それは凄みのある演技とかドタバタではなく、ほどよく抑制されたフランケル監督の演出によって、限りなくごく普通の家庭らしさが再現されていたのでした。さすがは『プラダを着た悪魔』で一世を風靡した監督だけのことはあります。時にユーモラスに、時に激しくぶつかり合い、そして和解していくハートフルな展開でした。
だからきっと同じような倦怠期を迎えたカップルだったら、思わず感情移入してにたりと苦笑いするシーンがどっさりと詰まっています。特にご主人さんは覚悟して見たほうがいい内容ですぞぉぉぉ~!
自分はキチンと妻を愛しているつもりでも、その愛し方がいかに独りよがりであったか!そして愛しているつもりでも、いつの間にか妻を女性扱いせず、単なる家政婦ロボットとして利用しているのに過ぎなくなっていたか!さらに、妻へのキスどころか、体に触れること自体も厭うことになってしまったか!男って、ものさえ上げれば女は喜んでいると思い込みがちなんですね。反省しなければいけません。愛を与えることって、簡単なようで難しいですね(#^.^#)
劇中でも、愛し合って結婚した夫婦が、いがみ合ったわけではないのに、ちょっとしたきっかけから別々の寝室で寝るようになって、それが日常となって行き、セックスレスな関係に陥ってしまう姿が描かれていました。一度セックスレスになってしまうと、夫の方は面倒になり、なかなかきっかけが作れないようなのです。たとえ浮気を一度もしていない真面目なご主人でも。さらには、お互いに夫婦で肌を触れあうことすら、他人の考えるほど易しいものではないのよという劇中の台詞には、そんなものなのかと驚きました。
タイトルは『夫婦げんか』となっていますが、喧嘩の話ではなく、セラピーを受けて再生していく物語なんです。原題の『Hope Springs』がしっくりくる内容でした。
物語は、夜の夫婦生活を久々に頼んだ妻のケイが、夫のアーノルドに軽く退けられて、自分の人生に絶望し、思い余って一週間で4000ドルもする高額なカップル集中カウンセリングを夫に相談しないで申し込んでしまうところから始まります。ケイの悩みも知る由もなく、一方的に夫婦間のトラブルはないと決め込んでいたアーノルドは、妻の独断に怒り、激しく同行を拒絶します。しかし、離婚経験を持つ職場の同僚の忠告により、危機感を感じたアーノルドは、渋々ながら同行することに。
しかし、冒頭から対面したセラピストに向かって詐欺師と呼び捨てにするなど、セラピーの前途は厳しいものでした。
少々アーノルドの弁護をすると、このセラピー、セックスカウセリングがメインだったのです。いきなり赤の他人に、いつからセックスレスになったかなど夫婦生活の内情をあからさまに聞かれると、失礼な奴だと怒り出すのも無理ないことですね。しかもセラピーごとに『課題』が出されて、次回までに実践しなければいけません。もう何年もセックスレスな関係に陥っているカップルが、いきなり抱き合って寝ろとか『課題』が出されても気恥ずかしいばかり。愛撫しあうという『課題』には、ついにアーノルドが拒絶して、セラピーは中止になる寸前まで追い込まれます。
このときのアーノルドに向けたセラピストのフェルド医師が放つ言葉が印象的でした。「あなたのプライドと奥さんを大切に思う気持ちとどっちが大きいか考えてください。」と。
本作の脚本のいいところは、なかなか一筋ならでは主人公の夫婦が夫婦関係を取り戻せず、何度も危機を迎えるシーンを描いて、観客をハラハラさせてくれることです。その象徴的なエピソードが、「中折れ事件」。セラピーの成果が効いてきて、アーノルドが高級レストランにケイを招待し、そのままレストランのVIPルームで一夜をロマンチックな共にすることに。これにはケイも大喜びで、ふたりは自然に抱き合うように。久々の夫婦生活突入かと思いきや、ケイの置いた姿を見つめたアーノルドは、すっかり萎えてしまうのです。なんて酷い奴って思わないでくださいね。世の殿方の息子くんは、正直なんですぅ。無理してもダメなんですぅぅぅ~(^^ゞ
離婚の危機を抱えながらもセラピーを終えて帰ろうとするふたりに、フェルド医師は暖かく、セラピー参加で大きく変化したことを評価し、これがはじまりなんだと励まします。この先生の誠意あるキャラが、セックスがテーマのセラピーを嫌らしくなく、真剣に夫婦の再生を目指している姿が出ていて、作品のリアルティを際立てていました。でも特に再生でなく離婚を勧めることもあるという言葉には、アーノルドもどきりとさせられたことでしょう(^^ゞ
さあて、そんな瀬戸際なふたりがどうなるのか、ラストのどんでん返しが見ものです。 それにしても、ストリープとジョーンズのなんと息の合っている演技なのでしょうか。どう見ても本物の夫婦に見えてしまいます。隙がありません。年柄にもなくベッドシーンやオナニーのシーンをこなさなくては、ストリープ恥ずかしかったでしょう。それだけではありません。セラピーの課題の中には、公衆の中で××しなければいけないという卒倒するくらい恥ずかしいシーンがあるのです。よくまぁ出演を引き受けたものだと、ストリープの女優根性に脱帽しました。
どんな倦怠期の夫婦でも、この作品をご覧になれば、お互いを見つめ直すきっかけになれると太鼓判を押しておきます。そして久々に、××いたすことになるでしょう(^^ゞ