「私はまだ根気出していくだけ。」俺はまだ本気出してないだけ ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
私はまだ根気出していくだけ。
ナンだ?この言い訳、まるで私じゃないの!なんて
本気で思ってしまった、実に身につまされる作品。
そもそもこういうことを言う人間に限って(ホントーです)
本気出すところなんて、一回も見たことがない。
じゃあ、いつ本気出すの?今でしょ~っ?ってどこぞの
有名先生にぶっ飛ばされそうな気さえするんだけど、
このバツイチ42歳の男の日常が、全く珍しくないのが怖い。
私が子供の頃は…こんなオトナは見たことがなかったけど
今じゃ独身中年が親を頼って引きこもり中…なんてことが
珍しくなくなってきた。その怖さ(汗)が、ダラダラとした
世界観の中に織り込まれていて、なかなかの臨場感を醸す。
もし、うちの親がこんなんだったらどうする…?って、
誰もが思うシズオの醜態と、父親のいう「昔からコイツは~」
というくだりから考えても、かなり不思議なシズオの性格。
果たして結婚できていたことすら、怪しい(爆)
(会社勤め時代は、それなりにきちんとしていた様子だが)
冒頭からずーっと、そのシズオの世界観に浸されるので、
朝からゲームやって、漫画描いて、ボツになると少年野球を
見て、人のいい幼馴染みに酒を奢らせる…って、アナタ!!
これで生活できていること自体が不思議で堪らないのだが、
いちいち怒鳴る父親に代わって、なぜか健気な娘の態度。
父親を詰るわけでもなく、グレるわけでもなく、家事とバイト
をこなしながら、きちんと学校へも通っている様子。
(あとで意外なことが判明するんだけど)
こういうきちんとした人に囲まれながら、自分だけはしっかり
怠惰にキメる…。これはこれで、スゴイ才能だとも思える。
ただ面白いのは、何だかんだ言って漫画家になる夢を捨てない
けっこう一途で執念深いところがシズオにはある。
編集部に何回も持ちこんでは、ボツ。また持ち込んでは、ボツ。
その、紙やインク代だけだってバカにならないだろーに。
まるでへこたれる様子もなく、徹夜してまでシズオは描き上げる。
この漫画おそらく…つまらないんだろうなと思ったところ、
シュールでシンプルな内容のところなど、実にシズオらしい。
シズオを見ていると、誰に対しても並行目線で、実に素直。
小さなガキんちょ(失礼!)から、バイトの部下(一応)にまで、
店長!とか、監督!なんて、おちょくられても一向に構わない。
その懐の大きさが収入に繋がれば、言うことないのにねぇー。
生瀬の息子が母親に「シズオみたくなったら困る」と訴えるのが
あまりに的を得た意見で笑えるのと同時に、
でもそんなシズオから、君のお父さんはある意味インスパイア
されているところもあったのよ。いわゆる反面教師ってやつか。
編集部の担当くんも同じ。
誰にだってやりたいことはある。好きでやってみたい仕事が。
だけどそれで生活費を稼ぐ!ってことがどれくらい難しいか、
夢を追いかける人達は、言われなくても散々身に沁みている。
だから、憎まれないシズオが、みんな羨ましいのだ。
しかし細かいことになると、あの家は親父の年金で食べている?
としか考えられない。
シズオの退職金だって(自己都合だから)失業保険だって少ない
だろうし、どこからあの食費を捻出しているのかが不思議だ。
(友人曰く、けっこういいモノが食卓に上がっていたというし)
あぁ~ダメだ。
余計なところに考えが回り、ますます自分の首を絞めてしまう。
(私も本気を意識したことないな。ボチボチやるのは大好きよ)