「未来を創りだした魔術師の素晴らしさ」メリエスの素晴らしき映画魔術 もしゃさんの映画レビュー(感想・評価)
未来を創りだした魔術師の素晴らしさ
なんとなくタイトルで見てみました。事前情報もメリエスという人そのものも全くわからないまま…少し失礼でした…
映画を見た感想は…本当に素晴らしいアーティストがいて、素晴らしい映画があったんだ…ということをとにかく思い知らされた映画でした。
飛行機も開発されておらず、ムービー自体がメジャーではなく、世の中から可能性が疑われていた時代に、その可能性を信じ、さまざまな技術革新を起こし、SFXの基礎を作ったとされるメリエス。
その功績はいまさら語るでもないですが、この映画でもっともクローズアップされているのは、月世界旅行の素晴らしさです。
まだまだ宇宙というものが遠く、多くの人々が遠い月に思いをはせてさまざまな寓話が生まれた時代だったんだろうなぁと思うと妙にセンチメンタルな気分になってしまいます。
そんな時代に、映画を使って自らの想像を表現、多くの観客を月世界に誘い、虜にしたのでしょう。それは単にメリエスの想像力が優れていただけではなく、だれも見たことのない、月への旅をメリエスが映像化することができたからこそでしょう。
メリエスはその後も多くの作品を生み出し、世の中を虜にしていくわけですが、栄華は長くは続かず…。
自らの映画が世の中のニーズに合わず取り残されて行くなかで、すべてを失い、自分のフィルム500本を焼き払ってしまう。
拡張した映画作製所を閉めるシーンでの最後のあいさつにも見える皮肉な映像。あれだけ人々を虜にし、かつ、ただ時代のトレンドだっただけではなく、現在に脈々と継がれるSFの基礎を作り上げたといっても過言ではない、メリエスにしてこの最後を迎えるというのが何とも悲しく、「アーティストのようなドラマって本当にあるんだ…」と唖然としてしまいました。ただ、そのドラマチックな人生も、メリエスの作り上げたさまざまな素晴らしい映像を色あせさせないようになのか、過剰に盛り上げることなく、淡々と語られていく作り方にもとても好感を持ちました。
そう、メリエスはただ、失意で終わったのではなく、これだけ素晴らしい映像をいくつもつくりだしたのだから…そう思わせるに足りる構成に感謝です。
終盤戦は月世界旅行を再度映像化させるために奮闘した人々のストーリーに変わりますが、ここでもやはりメリエスの映像が現代の人々をも離してやまない様子がわかりますし、本当にリストアは多くの人の信念がなしえた業だったということが身にしみてわかりました。そして、その信念を貫いて長い年月をかけてでも、再生させたかったという人々の思いを突き動かしたのは、100年の時を超えても色あせないメリエスの作品そのものだったのでしょう。やはりメリエスは素晴らしいものを残したのですね。
この作品の映像はどれも秀逸で、中でもカラーを着色したそのファンタジー感は、今の時代が3DやCGを駆使して、どんどんリアルを超越しようとしているからなのか、とても新鮮で芸術を見ているような感覚に陥りました。ましてこれがテレビも飛行機もない時代にうまれたものだとしたら(実際にそうなのですが…)とてもすごいことですよね。
映画というものの素晴らしさだけでなく、創造することの素晴らしさ、そして本当に素晴らしいものは100年の時を超えても色あせない…そんなことを感じる映画で、さらに、押し付けることなく、素直に心に響く構成が本当に良かったです。