劇場公開日 2013年11月9日

「笑いの下に見え隠れする熱さと冷たさ」清須会議 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0笑いの下に見え隠れする熱さと冷たさ

2013年11月12日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

悲しい

楽しい

観る前の心構えとして言っておくと、本作をバリバリの
コメディとして鑑賞すると肩透かしを食らうかもしれない。
笑いの量で言うと先日TV放映もされていた
『素敵な金縛り』の5~6割程度といったところかな。

だがその分、歴史ドラマとして意外やしっかりとした見応え!
クスクス笑いの中にヒヤリとするような冷徹な思惑や、
各キャラの抱える熱い想いが見え隠れする所が妙味。
重さと軽さがうまい塩梅(あんばい)に混じり合った佳作でした。

* * *

まずは『軽さ』の方から。

どのキャストも全力でヘンな役に挑んでおりました。
佐藤浩市のスネ夫並みの日和見主義者っぷり、
妻夫木聡のハイパーなバカ殿様っぷり、
役所広司の空気読めない熱血野郎っぷり
(らっきょうそんなに要らない)、
中谷美紀の全力ハッスルぶり、
そして天海祐希の雑な扱い(爆)

しかし、真剣なシーンはちゃんと真剣に演じてますとも。
なかでも大泉洋演じる羽柴秀吉は見事!
おマヌケと思わせて頭は回るし、夢にかける情熱と度胸もある。
人の心をつかむ術に長けていて、腹の内は最後まで読めないが、
それでもどうにも憎めない。貪欲すぎて逆に清々しいというか。
冗談抜きで、秀吉ってホントにこんな奴だったんじゃないかしら?

あと、なんといっても左近(爆)。
デンデケデンデケデンデケデンデン♪と勇ましい音楽が流れる度に
吹き出してしまった。例の落武者さんもゲスト出演で嬉しい。

* * *

次に『重さ』の方。

出てくるキャラの9割は、腹にイチモツ抱えたような御仁ばかり。
猿(秀吉)と猪(勝家)を大将に据え、2つの勢力が騙し合いの化かし合い。
相手の人間臭さを弱点として利用し、コトを有利に運ぶ冷徹な戦い、
そして間に割って入る、女性キャラの執念深さも恐ろしい。

だがどちらの勢力も、敵同士でありながら
完全に憎み合っている訳でもない。
敵でありながら、あるいは味方でありながら、
熱い感情と冷たい感情が入り雑じるこの微妙な温度。これが面白い。

なかでも柴田勝家と丹波長秀の友情には目頭が熱くなった。
「心の中の儂に問え。」
だなんて、ムチャクチャ熱くて格好良いじゃないか。
友人への叱咤と思いやりに溢れた、粋(いき)な台詞だった。

* * *

以下、不満点。

まずは尺の長さかな。やや冗長に思える場面もあったので、
もう10%ほどテンポが早ければベストだったと思う。

次に、剛力彩芽演じる松姫に最後、“女の凄味”が足りなかった点。
まあ、あの歳でその迫力を求めるのも酷だと思うので、
今後も精進なされよ(←どういう立場だ)。

だが、篠井英介演じる織田信長に、部下を魅了するだけの
威厳や存在感が無かった点はかえすがえすも残念だ。
勝家や秀吉らを結ぶ、単なる敵同士で括れない複雑な感情は、
主君への尊敬や憧れが原点だったと思うから。

* * *

とまあ多少の不満はあるものの、結末の知れてる話をこれだけ
おもしろ可笑しく見せられるっていうのは流石だと思います。
大満足の4.0判定! 監督、次回作も楽しみにしてます。

ところで鑑賞後、登場人物たちのその後について調べてみて、
何とも切なくなってしまった。戦の世ってのは儚いものだね。
この映画単体でも十分に楽しめるが、鑑賞前にメインキャラの
生涯をさらりと予習しておくと、より一層楽しめるかも。

〈2013.11.09鑑賞〉

浮遊きびなご