「共通の目標に向かってぶつかっていく、過程の解りやすさと、勢いの違いが『プラチナデータ』よりも優れている点」相棒シリーズ X DAY 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
共通の目標に向かってぶつかっていく、過程の解りやすさと、勢いの違いが『プラチナデータ』よりも優れている点
相棒シリーズの劇場版は、これまでに3作が製作されており、今回の映画は、09年公開の「鑑識・米沢守の事件簿」に続く、「相棒シリーズ」の最新作という位置づけ。今回は捜査1課の伊丹刑事とサイバー犯罪対策課専門捜査官・岩月の相棒を描くスピンオフ作品。伊丹刑事も相棒シリーズに欠かせない人気キャラに成長しました。今回は、クールな若月と出会うことで、シリーズ初期のような熱血漢&冷静沈着なコンビを再現しました。
「相棒 season11」のドラマ上では伊丹と岩月は「事件で知り合った仲」ということになっています。その「事件」がこの映画の中にあったわけですね。キャラクター同士のぶつかり合いが面白いこのシリーズで今作は「刑事の勘対データ主義」という分かりやすい図式が際立っていました。『プラチナデータ』を先週見たとき何かすっきりしない感じを受けたのですが、それが何だったのか、このふたりの関係を見ることでストンと理解できたのです。
そのわけは、昭和の刑事ドラマの泥くささと「サイバー犯罪」という最先端の事件背景のなかで浮き上がる、「実際の会社にいそうなデジタルに弱いおじさん」と「頭でっかちなネットに強い若者」という対比が際立っているからです。
特に『プラチナデータ』の浅間刑事と比べて、同じ現場一筋の伊丹刑事が見せる犯人逮捕の執念が凄まじいのです。映画という長尺な作品だからこそ描けたものでしょうけれど、後半の重要参考人を追い詰めるシーンは、なかなか骨太で感動すら覚えました。事件の背景にある財務省の圧力で、事実上犯人逮捕ができない状況に追い込まれても怯まず、容疑者を追い詰めようとする執念の強さは、殺人事件とは無関係の専門職だと割りきっていた岩月の警察官としての正義感に火をつけて、伊丹も驚くほどの活躍を見せるのです。
単なる際立てだけでなく、激しいキャラのぶつかりあいによって、互いが感化され、いつの間にか犯人逮捕という共通の目標に向かってぶつかっていく『相棒』となって行く、その過程の解りやすさと、勢いの違いが『プラチナデータ』よりも優れている点だと思います。
余談ですが追走シーン中、大量の1万円札が空中をひらひらと舞い。それを巡って多くの群衆が押しかけていくなかを、人をかき分けてう伊丹と若月の必死の姿がとても印象的でした。とても映画的なシーンだった思います。
相棒劇場版は、和泉聖治監督から橋本一監督に代わって、凄くテンポが良くなったと思います。5月公開の『探偵はバーにいる2』も期待できそうですね。
物語は、銀行員の死体と燃やされたお札が発見されるところから始まります。被害者は東京明和銀行本店システム部の中山で、ネットへの不正アクセスと機密情報漏えいの疑いでサイバー犯罪対策課からマークされていた人物だったのです。ここで殺人事件として捜査を開始した伊丹と、不正アクセス容疑として捜査していた岩月が出会うことに。そして互いにいがみ合いながら事件を追っていく先に、政官財の権力構造と金融封鎖計画「X?DAY」が浮かび上がってくるのです。中山がネット上でばらまいていたデータが「X?DAY」計画に関連するするデータだったのです。
「X?DAY」とは国債暴落の日。作品中でも右京の台詞として、このまま国債発行を続けて国の借金を増やしたら、いつかはそうなって、円も価値がなくなるでしょうと語らせています。
だからといって、それを阻止する大義名分の元に、わざと金融機関のシステム障害を起こして金融不安を発生させる「X?DAY」の予行演習を事も有ろうに財務省や金融庁が仕掛けることがあってはならないはずです。そんな事態を知りえた中山は、陰謀の告発に動いたのでした。
ところで実際は、「X?DAY」というのは、何としても増税したい財務省が仕掛けた、国民を脅迫するプロパガンダに過ぎません。今後も、日本政府の負債(国の借金)が増えた場合、家計(もしくは企業)の金融資産が増えるだけの話なので、「国債暴落Xデイ!」などという話はあり得ないのです。
それにしても本作での内村刑事部長の対応は異例でした。おそらくは、財務省の「X?DAY」の脅しに愕然となった内村は、官僚・銀行関係者から逮捕者を出すなという財務省からの要求に、屈してしまうのですね。しかし、殺人事件の犯人を、逮捕するなとは、いくら刑事部長でも口が裂けてもいえない言葉でした。だから伊丹にいつものように上から目線で高飛車に圧力をかけるのでなく、縋るように捕まえないでくれ~とお願いするところが何ともユニークでした。
ところで相棒シリーズのファンなら見落とせないのが、登場するキャラがオールスター構成であること。当然、右京もカメオ出演しています。しかし休暇でロンドン旅行中の右京が事件に首を突っ込むのは、出番の設定がやや苦しい(^^ゞ。まぁ、ファンサービスということで許してあげてほしいところでしょう。また元相棒の神戸の久々の登場も嬉しいところ。ドラマの最終回では名前だけの登場でしたが、本作では、これまたシリーズ準レギュラーといっていい総理補佐官・片山雛子を相手に、事件の舞台裏を暴く重要な役回りを果たしていました。もちろん、鑑識課の米沢、角田課長、陣川らおなじみの面々も、ばっちり活躍して伊丹をサポートしていました。「花の里」では、右京の代わりに捜査圧力に屈しそうな伊丹と岩月が、月本幸子に癒されるなど、ファンなら注目の絡むシーンが続々登場しますので、多いに期待して結構ですよ。