「求めていたものと違ったけれど、悪くなかった。」汚れなき祈り つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
求めていたものと違ったけれど、悪くなかった。
見たかったものは悪魔祓いに必死になっていく狂気だったので、ちょっと思った感じと違った作品だった。表面的な物語については物足りなかったといえる。
しかし、違った部分でそこそこ面白く観ることはできた。
やはり気になるところは、身勝手な人々ということになるだろう。登場する人物の多くが自分の都合を押し通そうとする姿は滑稽にすら見えた。
司祭は、現実的な人なだけとも受け取れるが、お金がないために修道院や孤児院の人数を減らそうとする。
修道女たちは、自分たちの居場所を確保するためにアリーナが悪魔憑きだとしきりに騒ぐ。
ヴォイキツァは修道院の暮らしを捨てられずアリーナと出ていくことが出来ず、しかしアリーナだけを追い返すことも出来ずにいる。
教会の偉い人が、宗教画がないからと修道院を訪れないのは、面倒だからだと透けて見える。
ここまで皆、宗教関係者なのに、慈悲の心みたいなものが全然ない。表面的には当たり障りない感じに接してはいるものの、本気で助けてあげようなどとは考えていないのだ。ギリギリ修道女長だけは違ったかな。
更に驚くべきところは医療関係者どもだ。
アリーナを診察した医師は、アリーナに統合失調症の薬を出しているのだから彼女の病名は分かっている。にもかかわらず、ベッドがいっぱいだからと原因不明の病気扱いして追い出そうとする。
救急の医師などもっと酷い。死にかけのアリーナを搬送してきたことを責める。助けられず亡くなったら面倒だからと。
誰かもう何人かだけでもまともな親切心があればアリーナに降りかかった不幸は回避できたように思える。
ルーマニアは歴史の流れの中で、自分勝手な国民性になってしまったという。助け合いの気持ちがないのだ。
人間は社会性の生き物だ。そんな中で社会性を失ってしまった国はやっていけるのだろうか。本当の罪人は誰だったのだろうかと考えてしまう。