強奪のトライアングル : 映画評論・批評
2012年7月24日更新
2012年8月11日より新宿武蔵野館ほかにてロードショー
脂の乗った香港3名匠による、お祭り「連作」映画
戦後の探偵小説ブームの時代に、人気探偵作家たちが「連作」ということをよくやっていた。3~4人の作家で一人が発端を書き、次号に別の作家が続きを書き、最後はアンカーが謎解きをして決着をつけるもの。乱歩の短編「畸形の天女」なんかも、この「連作」の一部だった。ミステリーならではのお遊びである。
この形式を映画でトライする監督たちが出ようとは。びっくりして口アングル、いやアングリである。さすが香港の脂の乗った3名匠。30分ずつの短編で、先の順番の人が撮ったのを見てから、自分の出方を考えて繋げていくのだから難題である。でも、3人とも、楽しげにこれをやってのけた。
第1走者は、ツイ・ハーク。金に困って強盗計画を立て始めた3人の男たち――サイモン・ヤム、ルイス・クー、スン・ホンレイ――の前に謎の老人が現れ、年代物の装飾品の一部らしき黄金をわたす。その老人の死をテレビで知った3人は、老人が政府のビルの地下に古代の宝物を隠していた事を突き止め、銀行強盗のようにそれを掘って奪って逃げる……そこまでの30分が起。
サイモン・ヤムの女房のケリー・リンと間男の刑事ラム・カートンもからみ、第2走者リンゴ・ラム監督のパートは、欲と愛のサスペンスとなる。これが承と転の前半。
そして、転の後半と結は、ヤク中のラム・シュが待つ、最終走者ジョニー・トー監督によるワニのいる“地獄のレストラン”篇。お宝をめぐる騒動は、さらに多くの者たちを巻き込んで……ここはトーの個性満開のハチャメチャな大饗宴だ。
どこでバトンがリレーされたのかを想像するのも楽しい、名匠たちのお祭り映画だ。
(宇田川幸洋)