「できねえことはできねえ!」AIKI 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
できねえことはできねえ!
「迫り来る相手を受け入れ、自分の身体の一部とする」という合気道の極意は、太一のハンディキャップへの向き合い方とも通じている。誰かのせいにしようが過去を嘆こうが、下半身を貫くこの無感覚だけが現実であり、それは決して変えることができない。しかしそこを敢えて諦め切って自己自身と向き合うことで、何か新しい道筋が見えてくるかもしれない。
彼がその結果見出した合気道という武術はかなり変わっている。自分からは一切動かず、相手から加えられた暴力をそのまま相手の身体に受け流す。言うなれば徹底的な受動だ。
思えばこの映画には「能動性の失効」がキータームとなるシーンがいくつもあった。そもそも太一は下半身付随という形で「ボクシング」という能動性を序盤から完全に失っているわけだし。
中でも勃起できない太一とサマ子が性行為に及ぶシーンは印象的だ。太一は「こういうのは自分から行かなきゃダメだよ」とサマ子に諭されいざモーションをかけてみたものの勃起できない。ここぞという場で能動性を削がれた太一は落ち込むが、サマ子は大丈夫だよと優しく包み込む。そして二人は勃起の介在しない性行為を心ゆくまで楽しむ。
「障害者だってやろうと思えばなんでもできるんだ!」みたいな「能動性の回復」をゴールに据えた障害者映画は多いが、本作はそういった出来合いのエンパワ映画とはむしろ真逆といえる。障害者なんだからできねえことはできねえ、と割り切ったうえで、だからこそできなさそれ自体にポジティブな価値を見出していくしかねえんじゃねえのか?というのが本作のメッセージだと思う。
サマ子の失踪に関して、その顛末がオープンエンドでぼかされていたのもかなりよかった。もしここで太一が悪の組織を自分一人だけの力でバタバタ薙ぎ倒していく、みたいな描写があったら本作は障害者という奇特さで味付けしただけの俗悪なカルト映画に落ちぶれてしまっていたと思う。