「宮崎駿 in U.S.A. 時には昔の話をしようか。」もののけ姫 in U.S.A. たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
宮崎駿 in U.S.A. 時には昔の話をしようか。
『もののけ姫』(1997)が北米で公開されることを受け、映画祭への参加や現地インタビューのために渡米した監督:宮崎駿に密着したドキュメンタリー。
○出演
宮崎駿(『もののけ姫』監督/原作/脚本)。
1996年7月、スタジオジブリを擁する徳間グループとウォルト・ディズニー・カンパニーが業務提携。これはジブリの過去作をビデオとして売り出して大儲けしたいディズニーと、来夏に公開を控えた『もののけ姫』に箔をつけるため北米での公開を目指していた鈴木敏夫プロデューサーの思惑が一致したことにより実現した企業戦略である。
この提携によりジブリのソフトはバカ売れし、宮崎駿は『千と千尋の神隠し』(2001)でオスカーを受賞することになる。これぞWin-Win。
ちなみにこの話を纏めたディズニー側の仕掛け人、ブエナ・ビスタの日本代表である星野康二は後にジブリの代表取締役となっていたりする。
元々『もののけ姫』は日米同時公開を目指していたようなのだがそれは叶わず、結局アメリカで公開されたのは日本公開から2年も経った1999年10月。興行収入は230万ドル程度に留まっており、お世辞にも成功とは言い難い結果になってしまっている。まぁ鈴木敏夫としても「アメリカでも公開される!」という宣伝文句が欲しかっただけでそこまで売れるとは思ってなかっただろうし、既に日本で爆発的大ヒットをした後だしであんまりこの北米興行には力を入れてなかったんだろう。宮崎駿の名が海を越えるのは、2003年度のアカデミー賞まで待たなくてはならない。
近年ではめっきり表に出てこなくなった宮崎駿だが、この頃は営業活動にも精を出している。元来話好きの人間だからだろう、インタビュアーの際どい質問に疲弊しながらもガシガシと答えている姿が印象的である。
面白かったのは「近年の日本アニメについてどう思いますか?」という質問への答え。
「多くの友人が携わっているが、僕は好きではない。物の見方が浅い。人間に対する共感が薄い。物事が機械的である。安く作ってある。(ニヤリとわらいながら)美しくない」。
いやぁ物の見事に一刀両断。なんとなくこの宮崎駿の発言の裏側には『エヴァ』(1995-96)の影がチラついているような…。気のせいかな。うん気のせいだな!
なんにせよ、今の深夜アニメを宮崎さんに見せたらそのまま憤死するんじゃないだろうか。結局高畑勲や宮崎駿ほど、物事を深く描く事が出来る作家が登場しなかった。これはアニメーションの限界であり敗北であると、私なんかは思ってしまうわけです。少年漫画原作のアニメが我が物顔で跋扈しているようじゃ、表現としてのアニメは終わりだね🌀
20分程度の短編ドキュメンタリーであるため、特段の見どころがあるわけではない。動くニール・ゲイマンが見られることくらいか。
しかし、1980年代初頭のアメリカ滞在エピソードが、宮崎駿本人の口から語られているというのはなかなか貴重。
タイトルは伏せられていたが、この時作っていたのは『リトル・ニモ』という作品。『ルパン三世』(1971〜)を立ち上げたことで知られる東京ムービーの剛腕プロデューサー、藤岡豊が主導した事で知られたこの日米合作映画は、日本からは高畑勲・宮崎駿・大塚康生・近藤喜文・友永和秀・月岡貞夫・出崎統・杉野昭夫が、アメリカからはゲイリー・カーツやレイ・ブラッドベリが、さらにフランスからはメビウスが参加する奇跡のドリームチームによって制作される…はずだったのだが。
こんなメンバーが集まって物事が上手く進むはずもなく。プロジェクトはグダグダの極みに達する。噂によると『スター・ウォーズ』のプロデューサーとして知られるゲイリー・カーツ(1977)の横暴な現場仕切りに耐えきれなくなり、宮崎駿や高畑勲はプロジェクトから離脱。制作現場はカオスと化し、10年という期間を経てなんとか映画は完成するも、その興行成績は散々なものとなってしまった。むしろよく完成したよこの映画💦
この制作の裏側を伝記映画として描いたらメチャクチャ面白い作品が生まれそう。誰か撮ってくれないかしらん?
宮崎駿の、というより日本アニメの混乱期についてチラッと触れられているというだけで、このドキュメンタリーには価値があるように思う。ジブリファンには是非鑑賞していただきたい。
※『「もののけ姫」はこうして生まれた。』(1998)のDVD特典として鑑賞。
※※本作は2000年、『もののけ姫』北米公開の凱旋記念として上映された英語吹き替え版に併映された。この当時のルポが『もののけ姫』のファンサイトに書き残されており、それがなかなかに興味深い内容だった。
観客の不入りに「もう”もののけ現象”とまで言われたあの熱気は消え去ってしまったと言わざるを得ない」とか「このドキュメンタリーを見て宮崎監督を身近で親しみやすい存在として感じた人はいないだろう」とか…。当時の生の声を知ることが出来るのでぜひ一読してみてほしい。