妻の喜び
劇場公開日:1953年6月24日
解説
'53年1月の朝日賞授賞式上起った実話(モデルは大阪大医学部教授黒津敏行氏)を基に中村定郎が脚本をかいた。監督は「決闘」の新人田畠恒男。撮影、音楽は「女だけの心」の平林孝三郡、「雪間草」の万城目正。「景子と雪江」の北龍二、「混血児」の夏川静江、「女だけの心」の小園蓉子、「愛欲の裁き」の野添ひとみ、“劇団若草”の大山巖、“劇団若い人”の中村信一、“劇団テアトル・ボア”の上川湛美など子役たち、奈良真養、飯田蝶子等古手連が出演している。
1953年製作/44分/日本
劇場公開日:1953年6月24日
ストーリー
大坂大医学部の中河喜好教授は20年来自律神経系の研究室につめきりで家庭にかえる日も数えるほどしかない。貧しい学究の台所を六人の子供を一手にあずかって夫人保子の苦労もなみ大抵ではなく、今日この頃とて祖母貞子の入院費二万円の調達に心をくだいている。夫に打あけて相談しようにも研究に徹夜をかさねているその姿を見ては、つい気がひるみ、恥をしのんで従妹久子のところへ借金にゆくが、断わられた。事情を知る長女、女子大生の元子は母の献身にたいしてあまりにも父は無反省だと恨めしい気にもなった。しかしその犠牲に心からの満足とよろこびを感じている母を知ると、彼女はただ泣いて「お母さまって大好き」と叫ぶのだった。--久方ぶりに研究室を出て家路についた中河は途中はげしい眩暈をおぼえたまま、帰宅早々床に就いてしまう。大過はなく治ったが、保子、元子などのすすめもあり、仕事が一段落ついたのを機にしばらく自宅でつかれを癒そうとする。そこへ、彼の永年手塩にかけた「自律中枢の研究」に朝日賞受賞の通知がくる。喜びに湧く一家。元子は母ともども東京での受賞式に参列するよう父にのぞむが、中河は照れくさげに拒む。さすがにかるい失望を禁じられない保子。が、“令夫人同伴”が条件の招待状を目にして中河はなにか打たれたようになる。永い間の妻の苦労、愛情が渦まいて想起された。--晴れの受賞式上、挨拶に引出された中河が妻のこと、そしてそれをのみしか語れなかったのは自然であった。特別席で聴く保子の眼にはなみだがあった。