エデンの海(1950)

劇場公開日:

解説

若杉慧の原作を、「美貌の顔役」の植草圭之助が脚色して、「栄光への道」「春の潮」などの中村登が監督している。製作は「破れ太鼓」「栄光への道」の小倉浩一郎である。これは、かつて角梨枝子主演で薔薇座で上演。角梨枝子の映画界入りのきっかけを作ったものであったが、映画では「春雪」でデビューした藤田泰子が主演し、「栄光への道」「童貞(1950)」などの鶴田浩二がつき合い、その他、大日方伝、加藤嘉、高橋豊子、毛利菊枝、文谷千代子などが、それぞれ主な役で助演している。

1950年製作/94分/日本
配給:松竹
劇場公開日:1950年10月14日

ストーリー

美しい瀬戸内海の風光を、眼下におさめ得られるある岬の丘の中腹に建てられた女学校と、それに付属する寄宿舎。清水巴はこの女学校に学び、この寄宿舎に寝起きしていた。ジャバで育ち、両親をジャバで失って日本の祖父の許へ帰って来た彼女は、日本のせせこましい空気にはなじめない野放しの馬のように、自由奔放な気質を持った娘であった。そのため、常に級友の注視の的になり、教員室の話題となった。堅苦しく気の小さい教師たちは、巴が何かしでかすたびに、処分を処分をと騒ぎ立てたが、理解のある校長が常に巴の立場をかばっていた。巴には、室長の井上君子と、下級生の中島とが、同性愛的な異常な愛情を寄せて、その印をと迫っていたが、巴にとって女学生間のそんな不健康な愛情遊戯は耐えられなかった。息の詰まるような、そうした圧迫を逃れて、巴はいつも一人丘の上に逃れ、そこから美しい海を見て、南方を恋う歌を歌っていた。南條は、新しくこの女学校へ赴任して来た生物学の教師で、まだ若い独身青年であった。ふと海岸で一人歌っている巴の姿を見てその自然な侭の姿を美しいと思った。南條は巴の級の受持となった。南條は因循な気風の中に育った女学生たちに生物のあからさまな実態を教えることによって、自由な息吹を吹き込んでやろうと思うが、南條の語る言葉や、見せてくれるものをそのまま素直に受け入れられるのは巴一人で、他の女学生は、いやらしいとか、おかしいとか笑いくずれるばかりであった。しかしやがて次第に、この科学グループも成長して行った。ただ巴は、南條に対する全身的な尊敬と信頼を表現するのに、内地の少女らしい躊躇や恥らいを知らず、率直に南條へぶつかって行くので、これが他の少女たちを刺激し、二人の親密さを嫉妬した中島や井上たちによって、校内へ二人の関係を曲げた噂が色々ふりまかれた。巴はそうした空気の中でも、相変らず自然な衝動の赴くまま、水着で夜寄宿舎を抜け出して海へ泳ぎに行ったり、船で町へ出る南條について行ったり、水着のまま南條と一緒に馬に乗り、南條の止めるのも聞かずそのまま馬を校庭へ乗り入れたりした。南條は自分が事実巴を次第に愛するようになっていることを知って来た。巴も南條を愛した。しかし結婚するまでは、二人は美しい友情を持ち続けようと約束した。にもかかわらず校内では二人の間柄に対して、いまわしい風評が立ち、職員会議でも問題になった。南條は、いさぎよく身を引く決心をして、この女学校を去って行くことになった。全ての事情をありのままに語って、生徒一同に別れを告げる南條の言葉は、若い女学生たちの胸に、素直な心を呼びさました。彼女たちは自分たちの歪められた心を悔い、南條の去るのを心から惜しむのであった。南條の乗った船が出て行くのを巴は一人丘の上から見送った。

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