嘆きの女王

劇場公開日:

解説

国際タイムス連載の船山馨原作『喪失の季節』新聞小説を「フランチェスカの鐘」の沢村勉が脚色し、長い間、吉村公三郎監督のアシスタントの萩山輝男が第一回作品として監督に当たる。撮影は「四人目の淑女」の長岡博之が担当する。「君待てども」の月丘夢路「新妻会議」の徳大寺伸「斬られの仙太」の花井蘭子らが主演し、山内明、清水一郎、安部徹、神田隆らが出演するほか、新人沢村貞子も助演する。

1949年製作/89分/日本
配給:松竹
劇場公開日:1949年6月27日

ストーリー

笠原真澄は映画女優である。今やジャズ歌手としても有名で、人気もあることを自分ながら知っていた。しかし、彼女の胸には七年前の傷手がうずいていた。それは彼女が音楽学校を卒業したばかりの頃、愛人重光達生は二十九歳の若さで外科医の医学博士号をとり、その将来を嘱望されていた。二人の間には熱烈なそして清潔な愛情があった。ちょうどその頃脇坂出版社の社長である脇坂茂平という初老の男から、是非真澄のパトロンになるという話があった。真澄にとっては女優として成功を夢みる、大きな魅力でもあった。遂に脇坂に肉体の純潔を奪われ、しかも異常妊娠で手術を必要とするに至ってしまった。それを良心の呵責に苦しみ、真澄は重光に告白する。彼はすべてを許してその手術を引き受けるのであった。だがそれからまもなく彼の勤めていた昭和病院に彼重光の姿は見えなかった。絶望した真澄は虚しい自棄の心をいだいて再び茂平の腕にもどり、女優として成功するにの夢中になった。茂平の後援も異常な熱心さだった。そしてそれから七年間、今は豪しゃな邸宅に住む身分であったが、重光の面影が今なお胸の中に生きていた。七年前に姿を消した重光達生は、そのころ場末映画館で真澄の主演している映画館をあさって歩いていた。彼はすべてを許せる気持ちで真澄の手術を引き受けたが、手術最中に愛を裏切られた失意惑乱から彼は、無意識のうちに必要のない片方の卵管まで切断し、真澄を障害者にしてしまった。その夜から彼の苦悩が始まり大陸に渡り転々として歩き、遂に彼はアルコール中毒症状になって帰ってきた。今は、与太者さがりの志津五郎や、脇坂出版社に十年も勤務している靖子達と同じアパートで、ふるえる手にメスをもって、悪の中に生きる人達の手術をしてやって、酒を飲んでいた。しかし、真澄と重光はめぐり会える日がやってくる。再び彼等は恋の炎が再燃し始めた。五郎は重光の苦しみを見て、今もなお脇坂が真澄に食い下がっているのを、処分しようと決心する。彼、重光を慕う靖子は、彼のアル中を直そうとして、紙のヤミ流しまでやる。しかし彼女は真澄の愛を知って淋しく引き下がるのであった。そして映画「青の女王」の撮影のため蔵王にロケハンが組織され撮影隊の一行が真澄を中心に出発した。脇坂は重光との関係を知って後を追った。重光もそして五郎も、五郎は脇坂とともに取り組んだまま、ナダレの中にうずまってしまった。重光は何もいわず、真澄は涙のまま、抱擁に身を任すのであった。

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