「MVPはのび太のママ」映画ドラえもん のび太とアニマル惑星 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
MVPはのび太のママ
のび太の部屋が突如として異世界に接続される…というお決まりのパターンで辿り着いたのは動物しか住んでいない惑星・アニマル星だった。
文明を得た人間以外の動物が覇権を握っている異界に足を踏み入れるというパターンは過去作『竜の騎士』でもみられたものだし、本作以降に制作された『創世日記』『翼の勇者たち』でも踏襲されることになるが、本作に特段傑出している部分はない。
エコロジーという観点からも『雲の王国』という傑作の前ではやや霞んでいる。ただ、のび太のママが裏山再開発に反対する市民運動に参加するくだりだけは面白かった。まあ確かに、今や「サザエさん時空」状態とはいえのび太の母親ってバリバリの全共闘世代だもんな…
アニマル星の文明が実は22世紀の科学者によって人工的に生み出されたものである、という展開も後年の『翼の勇者たち』のほうが遥かに上手く血肉化している。
さらに言えば「地球よりも環境の綺麗な世界」というのも『宇宙開拓史』において既出である。2桁の大台に突入してドラえもん映画もいよいよネタ切れ気味か…と冷や汗をかいた。
平和で美しいアニマル星を脅かす異種族・ニムゲの正体が人間だったという種明かしは衝撃的だ。ここにおいてのび太ママらが繰り広げている市民運動の善性ととアニマル星をめぐるニムゲの悪性が「人間」という種族の異なる側面を同時に覗かせる。
この両義性の提示は『鉄人兵団』『雲の王国』『創世日記』といったドラえもん映画の傑作に共通するアティテュードだ。もうちょっとうまいこと調理すれば本作も傑作になり得ていたのかと思うと残念でならない。
それにしても本作のMVPはのび太のママをおいて他にいない。彼女が環境問題の講釈をドラえもんやのび太に披露したからこそ彼らはアニマル星の窮状に対して真摯に向き合うことができたのだし、彼女がアニマル星の花を押し花の栞にしてくれていたからこそアニマル星への回路を絶たれたドラえもん一行が「宇宙救命ボート」でアニマル星を目的地に設定することができた。