悲しき鳩笛
解説
強盗事件に巻込まれた兄妹を中心に庶民の哀歓を描いたもので、「伴淳の三等校長」の永塩良輔監督作品。永塩の原案により「荒海に挑む男一匹 紀の国屋文左衛門」の共同執筆者の一人、本山大生が脚本を担当。撮影は「太陽に背く者」の倉持友一。第二の美空ひばりとして松竹が売出す九歳の少女歌手美珠さちよのデビュー作。
日本
ストーリー
タクシーの運転手森山真吉は九歳の妹珠子と二人、亡夫の戦友だった自転車屋の長島茂造の二階に下宿している。真吉と茂造の娘は近く結婚するはずだった。ところが競輪気違いの茂造は娘の貯金通帳を持出す始末。真吉に諭されてようやく思い止った。ある日真吉は夕刊で、先日偶然にも四年ぶりに再会した学校時代のサッカー部の同僚野田が六百万円強奪の銀行ギャングの共犯者であることを知った。そして、その翌日、真吉は野田に電話で呼出された。野田は二十万円で一味を逃がしてくれという。真吉は札束を突き返そうとするが、野田は今夜十時、大手前の工事場まで来てくれと素早く立去った。暗い心で車を走らせる真吉は、途中、自転車の総代理店主橋田から、一カ月以内二十万円納金しないと茂造の店が閉鎖されると聞き、この金をと一瞬迷うが、妙子を思い、それを振り切った。ところが、納金を迫られている茂造は、真吉の二十万円に手をつけてしまった。それとも知らず、金包みを手に工事場に行った真吉は主犯の立花と野田に逃亡協力を拒絶し、それを渡すが、明けられた包から現れたのは小辞典と三枚の千円札。真吉の背に立花の銃口が……。一方そのころ茂造の家へ橋田と私服刑事が訪れた。茂造が納金した札の番号が盗まれたものと分ったのだ。茂造が真相を語れぬうちに、とうとう真吉は強盗の一味にされた。一方、頼みに応じない真吉に業を煮やした野田は、妙子までもおびき出し、脅迫した。遂に何事か決意した真吉は立花らをトラックに乗せ走り出した。そのころ珠子は兄を求めて雨の中をさまよっていた。走る真吉の車。真吉が検問所を突破したことから彼が警察に連絡をとろうとしているのを感じた立花と野田は倉庫に真吉を入れて激しく迫った。猛烈な格闘。しかし、珠子の懸命なはたらきでパトカーが--。茂造は橋田の好意で店を続けることができ、真吉、妙子、珠子らに再び笑いがよみがえったのだった。