劇場公開日 1956年1月29日

「☆☆☆★★★ 小津安二郎作品と言うと、『東京物語』や『晩春』等の作...」早春(1956) 松井の天井直撃ホームランさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5☆☆☆★★★ 小津安二郎作品と言うと、『東京物語』や『晩春』等の作...

2019年5月10日
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☆☆☆★★★

小津安二郎作品と言うと、『東京物語』や『晩春』等の作品が真っ先に浮かぶ人が多いのではないでしょうか。
その様な親娘の関わりを描いた歴史的な名作を撮る一方で、《人間の業》を炙り出す作品も多い。
その代表作と言えるのが、自身が撮った『浮草物語』をリメイクした『浮草』ではないか…と思っている。(小津作品を全て観た訳ではないが…)
さしずめ、この『早春』は。『浮草』を撮るにあたり、習作となったのでは?…と思わせる程。男女の【腐れ縁】に関し、「これでもか!」とばかりに畳み掛けて来る。

【腐れ縁】とは書いたが、主演の2人、池部良と淡島千景は夫婦。
夫婦だけに、本来の【腐れ縁】の言葉の意味する〝くっついたり離れたり〟と言った関係では無い。
…無いのだが、まさに【腐れ縁】と言うに相応しい様な描かれ方だった様に思える。
映画の舞台は蒲田在住の夫婦が、夫の浮気から仲違いをするも。その関係が修復するまでの姿を描く。

映画は、サラリーマン社会の悲哀を背景にしているのだが。小津が描くサラリーマン像はまさに会社の中。ひいては、日本経済発展の中での《歯車の一つ》にしか過ぎない…とゆう思惑の様な描かれ方で。昔から時々、小津安二郎に対して少しばかり感じていた…。

意 地 の 悪 い お っ さ ん !

そんな思いを深めたりするのだった(。-_-。)

何てったって、死んでしまった池部良の同僚に対して。元上司の山村聰は「サラリーマンの辛さを知らずに死んで行ったのだから、幸せだよ!」(←完全に覚えてはいないが、こんな感じで)だものなあ〜(¬_¬)

そんなサラリーマン社会を描きながら。小津の本質にはどこか、日本社会が以前から抱えていた。男女封建制度による、男女の(立場的な意味から発生する)差別的な一面も多少有るのでは?…と思わせるところ。
そんな面を感じるのが、淡島千景の母親役の浦部粂子。
夫が浮気した事で実家に帰って来た娘に対して言う台詞は、昔ならいざ知れず。現代ならば全女性を敵に回しそうな程だ!
ただ個人的に、浦部粂子と娘との言葉のやり取りと言えば。何と言っても成瀬巳喜男の『稲妻』での、高峰秀子との母娘の口喧嘩の素晴らしさを思い出してしまい。観ていて楽しくなってしまった(´ω`)

もう一つ男女差別の面として付け加えるならば。
田中春男を始めとする通勤仲間。
彼らが岸恵子に対して起こす、池部良の仲を巡っての〝吊るし上げ〟は。浦部粂子同様に、男の側の一方的な封建的な考え方に近く感じる。
だが、そんな吊るし上げに対して、全く怯む事がない岸恵子の姿。一体、女性側から観たらどう映るのだろうか?…「気持ちがスカッとした」って人もいるだろうが。その開き直りに対して、イラっと来る人の方が多そうな描かれ方に見え、「小津らしくないなあ〜」と、つい感じてしまったのですが…。
(他にも、「妊娠したかもしれない」と言う妻に対し。「そんな訳ないだろ!」…との台詞も有る)

※ 1 かねてより、小津安二郎が現代で監督をするならば。かなり凄腕のホラー監督として一流の腕を発揮しているんじゃないか?…と思っているのですが。岸恵子が受ける〝吊るし上げ〟に対するかの様に。池部良に対して淡島千景が行う単独での〝吊るし上げ〟

こ れ こ そ が ホ ラ ー 映 画 !

もう滅茶滅茶怖い((((;゚Д゚)))))))

名作多数の小津安二郎作品を意識して観ると。それらの作品の高みにまでは到達していない…とは思うのですが。小津安二郎その人を研究するには、やはり必見な作品だろうと思わずにはいられない作品でしょう。

※ 1 ホラー監督同様に、戦争映画作家でも在る…とも思っています。この『早春』でも、池部良は元軍人。元軍人仲間との集まりが有り、加東大介と三井弘次とゆう名脇役2人の演技をたっぷりと堪能出来る。しかし、『東京物語』の原節子の「私…狡いんです…」の様に。直接戦争の話では無いところから、突然此方の脳天をガツンと叩かれるが如く。戦争の無意味さを炙り出す様な台詞・演出がそれ程なかったのが、ちょっとだけ残念ではありました。

「そうか、土佐か」

「そうだよ、坂本龍馬だ」

「龍馬も居れば、トンマも居るか!」(^^)

初見 並木座

2019年5月9日 シネマブルースタジオ

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松井の天井直撃ホームラン