劇場公開日 1963年4月21日

「柔道一代この世の闇に、俺は光を投げる〜のォ〜さァ〜♪」柔道一代 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5柔道一代この世の闇に、俺は光を投げる〜のォ〜さァ〜♪

2024年9月15日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

東映チャンネル(スカパー!)の放送にて。

千葉真一の格闘技映画主演第一作は空手映画ではなく柔道映画だった。
この映画は村田英雄のヒット曲「柔道一代」を映画化したものだと思っていたのだが、この曲がこの映画と、同時期に放映されていたテレビドラマ両方の主題歌だったとは知らなかった。
村田英雄も出演していて、主演の千葉真一よりも先にクレジットされている。

原作小説もテレビドラマ版も知らないが、本作は言ってみれば「姿三四郎」まんまだ。
どうやらほぼ映画版オリジナルストーリーで、登場人物の名前も原作から変更されているらしい。
面白いのは〝講道館〟〝天神真楊流〟だけは実名称を用いているところだ。小説「姿三四郎」では講道館を〝紘道館〟と置換えているし、黒澤明の映画『姿三四郎』では音を変えて〝修道館〟とさらに置換えている。
本作(原作)は〝講道館柔道〟をフィーチャーしているということなのだろう。天神真楊流は嘉納治五郎師範が修行した柔術の伝統流派なのだ。

本作の公開年は柔道が初めて正式種目に採用された東京オリンピックの開催前年であり、高まる柔道熱をさらに煽る役割にテレビドラマ版も映画版も一役買ったようだ。

若き千葉真一が演じる本郷四郎は、姿三四郎のモデルでもある〝講道館四天王〟の一人西郷四郎…というより姿三四郎そのものだ。
師匠となる杉浦直樹が演じる香野理五郎はもちろん嘉納治五郎師範であり、「姿…」における矢野正五郎だ。
柔術、拳闘、琉球唐手と本郷四郎が戦いを繰り広げるのも「姿…」そのままだが、当然ながら原作が別の小説なのだから「姿…」の映画化にならないようにアレンジされている。
だがしかし、黒澤明の『姿三四郎』『続姿三四郎』の影響はところどころに見え隠れする。

警視庁主催の武術大会(柔術の部)で講道館柔道が世に名を馳せたのは事実(明治18年…諸説あり)で、「姿…」でも描かれている。
本作では、本郷はこの大会で活殺天道流の師範・大坪靖之助(神田隆)に勝利する。病み上がりだった大坪は再起不能のダメージを負ってしまう。
この当時の柔術の試合は一方が「参った」することで勝負を決するものだったから、負けを認めなければ何度も投げられることになるので、壮絶な結果はあり得ただろう。
背中から落として「一本」とするのは嘉納治五郎師範が後に考案した勝負判定で、石畳で戦えば背中から落とされただけで悶絶するという根拠に基づいている。

この大坪靖之助は「姿…」に登場する良移心当流の師範・村井半助の焼き直しだ。娘の道子(佐久間良子)が本郷に恋心を抱くのも同じだ。大坪の直弟子であり道子に思いを寄せている北山(佐伯徹)は、「姿…」では最大のライバル檜垣源之助に当たるが、北山は本郷が活殺天道流道場に入門する際に友情を築いた兄弟子という位置づけで対立関係にはならない。本郷は北山の道子への想いを汲むあまり、自分の恋心に蓋をするというオリジナルな青春ロマンスになっている。
一方、檜垣源之助の置換えはというと、神明活殺流師範代・門馬三郎を檜垣にミックスしたキャラクターとして、活殺天道流の師範代・中山仙造(山本麟一)が担っている。だが、こちらは薄っぺらい悪役である。中山のターゲットは本郷ではなく香野理五郎なのでライバルですらない。

拳闘(※)との興行試合で本郷が講道館を破門されるのも「姿…」と同じだが、三四郎はボクサーに足を向けた寝姿勢で対峙(アントニオ猪木がモハメド・アリと戦ったときと同じ)し、巴投げで勝利するところ、本郷はパンチをかわして立ち技でボクサーを何度も投げる。
※「姿…」では拳闘を〝すぱあら〟と呼称している。〝スパーリング〟から来ているのではないかと思う。本作中、見世物小屋の横断幕には〝米国拳術〟と書かれている。

琉球唐手の猛者 与那嶺拳心(大村文武)も「姿…」の檜垣鉄心・源三郎兄弟の置換えだが、本郷を狙う理由が全く異っている。
長兄源之助の仇として打倒姿三四郎に執念を燃やす檜垣兄弟だったが、与那嶺拳心は妹である琉球料理屋の女将(筑波久子)の女心をもて遊んだと知って本郷に恨みを持つのだ。
それ以前に本郷と与那嶺がすれ違いざまに互いを強者と察知する場面がある。

村田英雄が演じる火の玉組の若旦那・大村竜作は、東映が得意とする〝良いヤクザ〟だ。
大坪靖之助が中山仙造に道場を乗っ取られ、芸者に身をやつした道子を救うのがこの若旦那だ。本郷の後ろ盾にもなる。
当然に悪いヤクザ=黒卍会が登場する。
中山仙造一派と与那嶺を引き入れた黒卍会は結託。まずは火の玉組組長を刺殺し、一気に講道館と火の玉組の壊滅を画策する。

クライマックスの野原での戦いが、ヤクザと武道家たちが入り乱れた集団戦になるところが面白い。
私闘を禁じる講道館ではあるが、「降りかかる火の粉を払うのも柔道」と香野も羽織を脱いで大乱闘に突入する。
本郷だけでなく香野、大村にもしっかりと見せ場がある。
本郷と与那嶺の決戦は、互いにヤクザたちの凶刃をかわしながらの闘いとなり、未決着のまま終わるのが消化不良だ。
そして、最後はヤクザの組長が弟子では迷惑がかかると、講道館を辞する決意を香野と本郷に伝えた大村の締めのセリフに村田英雄の唄声が重なって幕を閉じる。
「(柔道を)捨てやしねぇよ。心の底にいつまでも、大事に仕舞っておくのさ」

試合場面でも修行場面でも、千葉真一の身のこなしはサスガだ。元々体操競技で東京オリンピックを目指していた人だがら、当たり前といえば当たり前だが、決めポーズなどを含めてエンターテイメントとしての魅せ方が上手い。
猫の動きを手本に着地の練習をする場面などは見事だ。

驚いたのは杉浦直樹だ。ホームドラマのイメージが強かったが、教育者でもある柔道家の佇まいを体現していて、意外とカッコいい。

佐久間良子はこの頃何歳だったのか、憂いある目元にふくよかな唇がキュートだ。芸者姿は可愛らしさと色っぽさが同居していて印象深い。
千葉真一とのシーンは意外と少なく、出番自体が短いのが物足りない…。

kazz
モアイさんのコメント
2024年9月25日

こんばんは。返信ありがとうございます。

軽い気持ちで質問したのですが、レビュー本文に載っててもおかしくない程詳しく教えてくださり恐縮です!
悪意はなかったけど結果的に女心をもてあそんでしまったって感じなんですね。けどまぁお兄ちゃんは怒るよなぁ~って展開ですね。
特別って訳じゃないんですが、手堅い職人技を感じるシナリオです。

「術」が「道」になって実戦からほど遠いスポーツへ変貌していったって話は聞いたことがあります。(修羅の門だったかも…😅)
やはり元々は生死のかかった技術だったんだなと。そういう時代と共に変わったり、風化したりした物って格闘術にかかわらず浪漫感じるんですよね。そもそも異種格闘技というもの自体がもう失われた概念になりつつありますが、やっぱり「総合」は違うんですよ。「異種」なんですよ!見たいのは!それぞれの背景を背負って別々の道を歩んできた者が1点で交わるっていうのが面白いんですよね…。

そして「レッド・サン」への共感・コメントもありがとうございます。
そうそう!水野晴郎→「007危機一発」→「007/Dr.ノオ」のテレンス・ヤング→ウルスラ・アンドレス!
トークショーでそんな話ししていました!いや~四半世紀振りに思い出しました😂ほんと適当な記憶力でアレなんですが、007に触れてくださったおかげで思い出しました!ありがとうございます!

水野晴郎さんについても貴重なお話でありがたいです。
岡山から大阪通いって、その電車賃でもう何本映画が見られたのだろう?って感じですね。だからこそ地元に映画館を!って事なんでしょうけど、それを実現した時には自分はもう東京へ出てきていたのでしょうから、本当に地元の後輩映画ファンのために成した事業なのでしょうね…とんでもない偉人じゃないですか!下手な政治家よりよっぽど地元の発展に貢献していますね。

私も改めて水野さんに合掌です。

モアイ
モアイさんのコメント
2024年9月24日

kazzさん、「フォールガイ」への共感・コメントありがとうございます。

ごめんなさい、今回はちょっとこちらに失礼します。
フォールガイに限らずなのですが、最近の洋画のキャラクターの名前って覚え難いのが多い気がしません?当人が画面内に居ない状態で名前出されても顔が浮かばない事が多くて…。まぁ個人的な能力の問題なのですが、本当に難儀しています。

それはともかくこちらレビュー大変興味深く読ませてもらいました。私は本作の存在をkazzさんのレビューで知りましたが、知ったところで見るのが相当難しそうな作品ですので、詳細なレビューに感謝しています。
私「姿…」さえ見ていない不届き者なのですが、この時代から異種格闘技戦の構想ってあったのですね。しかし力道山も木村政彦と戦っているのだから当然か(そもそも武術が異種格闘技を前提としているのか)と思いつつも、それを映画でどう表現しているのかは興味が湧きました。そのうち「姿…」から先ずは見てみようと思います。
一つ質問なのですが琉球料理屋の女将の女心をもてあそんだというのは事実なのですか?それとも与那嶺の勘違いなのでしょうか?

ついでにもう一つ失礼しますが「巨人の星」、ようやく飛雄馬が2号を完成させました。川上監督相手に初披露したところです。
飛雄馬がようやく大リーグボール1号を再び投げられるようになっても、その先に絶望しかない展開や一徹と飛雄馬の背番号、明子姉ちゃんと花形と、最近は色々あって少しづつしか観られていませんが相変わらず飽きさせない展開が続きます。

毎度のことながら長々とすみません。それでは。

モアイ