「ノーモアヒロシマを描いた佳作」その夜は忘れない たいちぃさんの映画レビュー(感想・評価)
ノーモアヒロシマを描いた佳作
初見は2013年1月(@新文芸坐)、二度目は新型コロナ始まったばかりの2020年3月「若尾文子映画祭」(@角川シネマ有楽町)で映画館が一斉閉鎖になる直前に鑑賞。
今回3回目の鑑賞はDVDで初めて観て、予告編の別テイクで若尾文子の綺麗さを堪能。
本作は、若尾文子主演・吉村公三郎監督による広島原爆被害者を通して描かれる「ノー・モア・ヒロシマ」映画🎥
広島に汽車でやってきた記者(田宮二郎)がバーのマダム秋子(若尾文子)に魅力を感じて、物語は進められるが、根底には「原爆反対」の強いメッセージあり。
本作の2度目や今回(3度目)ともなると顛末を知っているだけに、若尾文子が田宮二郎に「(そんな取材するなんて)残酷ね!」の意味や若尾文子が何故そういう態度をとるのかなどが良く分かる。そして、演技の上手さに見惚れてしまう😳
この作品、スクリーンの左に走るタクシーを映しながらその右側はタクシーが走る街並み(その左右逆もあり)という凝った構図も素晴らしい。
原爆投下後17年経って、いまだに苦しんでいる人を取材しようと奔走する記者だが、広島原爆祈念館あたりで佇む場面では「斜めの場面」があり、これまた素晴らしかった。
記者がマダム秋子と一緒に『広島の街並みを俯瞰する描写』、これまた良い場面。
更に、「画面の右側には田宮二郎、画面の左側にガラスに映った若尾文子」という凝った構図も見られ、本作は「とにかく素晴らしい構図のオンパレード」である。
記者が、指が6本の赤ん坊を追いかけ回す場面はヤリ過ぎの感あり、マダム秋子(若尾文子)に「残酷ね!」と痛烈な一言。
指が6本という話は、手塚治虫の漫画「ブラックジャック」の『指』というエピソード(現在封印扱い)でも描かれているが、本作でもモラルの在り方を考えさせられるエピソードという気がする。
若尾文子は、登場したときから『原爆の話になると、何か過去を抱えている雰囲気』が感じられて、とても上手い。
マダム秋子が河原に降りて、記者に「広島の石よ」と言って渡した石は、握ると粉々になる原爆の悲惨さ。
マダム秋子の友人が記者に「秋子さんは、幸せそうにあなたからの手紙を読んでいました。秋子さんにとっては、あなたと過ごしたあの日が幸せだった」という展開、記者(田宮二郎)が川に入って広島の石を取りつかれたように探して握りつぶし慟哭する場面は、風化してきている広島原爆への怒り・嘆きなどを端的に表現した素晴らしい映画である。
川に田宮二郎が入る時に、川面に浮き出て見える若尾文子の姿も幻想的。
今回初めて気づいたが、戦後17年という時代設定の中で若者たちの姿も描かれるが、その中のひとり=江波杏子などは「私は原爆の時には生まれていなかったもん!」と言いつつ、バーでお酒を飲んでいる。「あれっ、17歳未満ではないの?」と思ってしまった😄笑
ただ、17歳にしては相変わらず艶っぽい江波杏子であった。
なかなかの佳作!
<映倫No.12927>