「女は上半身と下半身を断ち切らないと、タフには生きていけないんだよ」愛獣 襲る! たーちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
女は上半身と下半身を断ち切らないと、タフには生きていけないんだよ
泉じゅんさん主演のにっかつロマンポルノ作品です。
遊(泉じゅん)は高校生時代に母の愛人の河村(小林稔侍)と関係をもったところを母親に見つかり、飛び出していきます。
母は横浜にあるバーでバーを営みながら売春をして、遊とルイ(野々村ルイ)を育てていました。
5年後母が殺害されたのを新聞で見た遊は横浜に帰ってきます。しかしそこでは刑事だった河村はヤクザになっていました。妹のルイはチンピラのような連中のキリ(内藤剛志)とショウ(藤倉俊之)と一緒にいました。
河村はヤクザ組織の松崎組が店には出入りしていて、同じ組のドスケン(益富信孝)が隣の店のマキ(珠瑠美)の愛人になっている事を知ります。遊はドスケンに接近して、母の死の真相を探っていきます。
全体的にロマンポルノなので、関係性や心理状態などの辻褄合わせよりもいかにセックスシーンを挿入できるのかがポイントだったと思うので、細かい事は目をつぶるとしたとしても、良く分からないところがあったと思います。
チンピラのキリ役を若い頃の内藤剛志さんが演じているのですが、今の活躍を想像出来るレベルではありません。最初のシーンのクネクネダンスは何をしているのか分かりませんし、何をしてこの店にいるのかもわかりません。
俳優たちの芝居の質も決して高くなくて、素地のしっかりしている泉じゅんさんの芝居のうまさが目立ちました。(小林稔侍さんはこういうクールなイケメンの役は似合わないです。セックスシーンも感情があまりにも入っていなくて、凶暴性も欲望のままに犯していく様子も全然伝わっていなくて、ただ動いているだけに見えました。特に酷かったのはラスト近辺の勇遊に至近距離で射殺されるのですが、2回転半くらい回って倒れて、そこに遊が股間をまさぐりそのまま騎乗位でセックスするシーンがあるのですが、それは無理でしょう。その上に手元にあった拳銃を持とうとするのですから、この死ななさはほとんどコントです)
とても良かったのはカメラのアングルや構図です。どの画面も構図が綺麗で、横浜の街や海辺のような風景や人物の各ショット。セックスシーンでも机や家具をうまく利用して、肝心なところを上手い具合に隠して、不自然でないアングルで撮影されていた印象です。
衣装も黄色や青色など原色を使用して印象付けていて、よかったです。(ラストの青いコートだけ色味はよいですが、ダボッっとしていてよくなかったです。
あとは何と言っても雨のシーンです。印象的に雨のシーンを取り入れて遊の心理描写に利用できていたと思います。
監督の黒澤直輔さんはあまり作品を撮影されていないようです。おそらく画面作りにはこだわるのでしょうが、作品内容や俳優たちの演技指導にはあまり口出しをしないタイプの監督だったのかと想像できます。
あれだけ良いロケ地。俳優。技術スタッフがいたにも関わらず、これだけの作品にしか出来なかったのは、監督の責任が大きかったと思います。