「何度でも映画館で観たい!!!」続・夕陽のガンマン 地獄の決斗 TRINITY:The Righthanded Devilさんの映画レビュー(感想・評価)
何度でも映画館で観たい!!!
クリント・イーストウッド主演、セルジオ・レオーネ監督のマカロニ・ウエスタン第三弾。「ドル3部作」完結編。
小学生でマカロニ・ウエスタンにはまり、サントラのレコードやカセットテープを随分買ったが、初めて聴いた本作の主題曲のカッコよさは別格。
そのせいで映画自体にも想像がパンパンに膨らんでる状態で初めて観た本編も、期待を裏切らない面白さに興奮した記憶が今でも蘇る。
昨年の『ドル3部作4Kレストア特集』は本作だけで5回観て6回目も予定してたのに、急なスケジュール変更で叶わなかったのが心残り。なので、今でもちょっと「ドル3部作4Kレストアロス」中。
今回の放送で本作を観るのはその時以来。
原題(THE GOOD,THE BAD,AND THE UGLY)から察するに、本作が黒澤明監督の『隠し砦の三悪人』(1958)に触発されている可能性は大。
『荒野の用心棒』(1964)でやらかしてるので筋書はまったく異なるが、もっと大きな違いは『隠し砦―』が武将らの上から目線の主観で描かれ雑兵は道化扱い、戦争は活劇の借景に過ぎなかったのに対し、本作は底辺の人間を中心にスポットが当てられているうえ、反戦のメッセージ性が極めて高い点。
ともにマカロニ・ウエスタンブームを牽引した三人のセルジオのうちコルブッチやソリーマらと異なり政治的にはニュートラルとされるレオーネが、本作では善悪が峻別されることの多い南北戦争を舞台に争いの愚かさをリアルに描写。戦闘シーンでの死傷者の演出だけでなく、肉体を欠損した廃兵も容赦なく登場させている。
子供の頃、南北戦争を扱っているのに黒人が出てこないことが観ていて疑問だったが、何度か観るうち、この映画が戦争を普遍的に描こうとしていることに気付き、2004年に発覚したアブグレイブ刑務所の捕虜虐待で、その推測は確信に変わった。
1928年生まれのレオーネにとって10代の大半を覆った戦争(第二次大戦)の悲劇が自身のトラウマとなっただけでなく、本国イタリアが枢軸国の中でまっ先に白旗を揚げ、その後連合国側としてナチス・ドイツと戦ったせいでかつての同盟相手に国民が虐殺されるという敵味方が顛倒する状況も、多感な頃の彼の思考に少なからず影響を与えた筈。
レオーネ作品に限らず、マカロニ・ウエスタンを単なるハリウッド西部劇の模倣と見做す風潮は今でもあるが、ブームとなったバックボーンも少しは考えてみる必要があると自分は思う。
基本的に洋画は字幕でしか見ないが、本作と『怒りの荒野』(1967)は時々吹き替えでも見たくなる。
ただ、CM込みの2時間枠に収めるために大幅にカットされているので、トゥコと兄の再会シーンや無意味な戦闘で部下を失う罪悪感からアルコール依存症に陥る太尉のエピソードなど、作品の印象を左右する大切な場面まで欠落しているのが残念。
逆に、「完全版」(「ドル3部作4Kレストア」も含め、現行普及しているヴァージョン)の際に加えられたシーンはさして重要でないような気も。結果的にほぼ3時間の超大作になった本作のレビューで「長い」と感じた人が多かったのも理解出来る評価。
完全版修復時の関係者は、トゥコがブロンディへの報復のために昔の仲間と合流するシーンに関し、「この場面がないと話が繋がらない」などと述べているが、そんなことを言ったらトゥコとブロンディが北軍の捕虜収容所で見かけたエンジェル・アイズをすでに知ってることの方がよっぽど不思議。
作中における三人のファーストコンタクトは今では映像の復元は困難なんだそう。
その影響もあって、南軍のキャンプにも出入りしていたエンジェルがいつの間にか北軍の将校の座に就いているなど彼に謎めいたイメージも付加している(英語版の資料では傭兵と説明されている)。
そんな印象や、金のために雇い主さえ殺す冷酷さはBAD(悪玉)というよりEVIL(邪悪)。
エンジェル・アイズに扮したのはリー・ヴァン・クリーフ。
前作『夕陽のガンマン』(1965)では理性的な初老の賞金稼ぎ役で存在感を見せつけたが、元は悪役が中心の俳優。本作では凶悪すぎるTHE BADを本領発揮とばかりに憎々しげに演じている。
にも関わらず、カーソンの情報を聞き出すために彼の情婦を痛め付けるシーンでは「女性を殴るのは御免」と言って演技を拒否したんだとか。
このエピソードは関係者の間では語り草になっていたらしく、製作のアルベルト・グリマルディからは「so sweet」なんて笑いながら振り返られてるし、共演のイーライ・ウォラックには「いい人なのにTHE BADだなんてね」と言われている。
本作以降マカロニ・ウエスタンのトップスターとして活躍したリー・ヴァン・クリーフは1989年に64歳で他界。
彼の墓碑には遺族によって「THE BEST OF BAD(最高の悪役)」の銘が刻まれている。
THE UGLY(卑劣漢)のトゥコを演じたウォラックはアクターズ・スタジオ出身の本格俳優。
オードリー・ヘップバーンと共演した『おしゃれ泥棒』(1966)での富豪役(ヘプバーンの婚約者)や『ゴッドファーザーPARTⅢ』(1990)のマフィアなど幅広い役柄で知られるが、『荒野の七人』(1960)の山賊のボス、カルヴェラや本作のトゥコなど、NY出身なのにメキシコ人がはまり役。
ちなみに自伝のタイトルは“THE GOOD,THE BAD,AND ME”。本人もトゥコの役が気に入っていたんだと思う。
トゥコの兄パブロ神父役のルイジ・ピスティッリは社会派映画や舞台もこなし、欧米のメディアでは名優扱い。
マカロニ・ウエスタンでは『夕陽のガンマン』のグロッギーや『殺しが静かにやって来る』(1968)のポリカットなど悪役がほとんどだが、本作で演じたパブロがどの役よりも深く記憶に刻まれる。
彼の登場場面以降、残虐だがとぼけた雰囲気の脇役に過ぎなかったトゥコが実質的な主役と化して、ほかの誰より観客の心を惹き付けていく。
そして、THE GOOD(善玉)なのに小ずるい真似も結構やってた本来の主人公ブロンディの印象も相まって、娯楽作品としての痛快感とは別に、善と醜悪の基準は何なのか、あらためて考えさせる作品に仕上がっている。
10年くらい前の『午前十時の映画祭』でも観賞したが(あの時も3回観たな)、昨年の『ドル3部作4Kレストア特集』と印象が大きく異なって感じるのは、その間に『サッドヒルを掘り返せ』(2017)を観ているせい。
大スクリーンで見るサッドヒルの雄大さは、その場所もまた主人公であるかのように強い感銘を受ける。
劇場の音響設備で聴くエンニオ・モリコーネの『黄金のエクスタシー』も格別。おかげで家のTVで観ると、やっぱりちょっと物足りない。
もう一度、否、何度でも映画館で観賞したくなる名作。
基本的に満点をつけない主義だけど、本作は心情的には星4.99999…。我が生涯のベスト・ムービー。
NHK-BSにて視聴。
ここ数年、NHKでは『ウエスタン』(1968)以外マカロニ・ウエスタンなんてまったく放送しなかったのに、久々にドル3部作がプログラムに。
次はプレミアム4Kシネマで放送して欲しいし、『怒りの荒野』や『続・荒野の用心棒』(1966)も観たい。
余談だけど、NHKって何でソフト版と異なる字幕を使うんだろうか。
三つ巴の決戦の直前にブロンディが発する「a gun」というセリフの字幕は、ソフトでは「決闘だ」だが、今回の放送では「しまえ」に。
どちらも意訳だけど、本来のニュアンスに近いのはどっち?!
