「邦題より原題には深い味わいがある」夜の来訪者 悶さんの映画レビュー(感想・評価)
邦題より原題には深い味わいがある
【鑑賞のきっかけ】
以前に面白そうなミステリ作品ということで、チェックはしていたものの、未見であったことに気づき、動画配信で鑑賞してみました。
【率直な感想】
<ミステリだけど、探偵役の「推理」がない>
本作品には、有名な戯曲としての原作が存在していて、この原作を元に既に1950年代に映画が制作されているそうです。
有名な原作ゆえ、21世紀になった今、再映画化されたのでしょう。
1912年のある夜、イギリスの富裕層の食事会の最中に、グール警部と名乗る人物が、屋敷を訪れる。
彼は、ある女性が自殺したことを告げる。
やがて、この富裕層の一族のそれぞれが、彼女を死に追い詰めるような状況で関わっていたことが明らかになっていく・・・。
舞台設定や物語展開からして、明らかにミステリ作品と呼べると思えます。
でも、この作品には、「推理」して真相を暴くという「探偵役」が存在しないのです。
グール警部は、「推理」をして、「事実はこうだったのではないですか」とその家族の面々を追い詰めていくという展開ではないです。
彼の頭の中には、すべて事実は頭の中に入っていて、例えば、彼女の写真を見せて、「この女性に見覚えは?」と質問し、告白を迫っていくという展開なのです。
<原題から物語のことを考えてみた>
そこで、本作品の原題を確認してみます。
それは、「An Inspector Calls」。
もともと「inspect」には、検査する、とか、調査する、という意味があります。
このため、直訳調で表現するなら、「調査官がやって来る」となります。
でも、屋敷を訪れた警部は、調査や検査はしていませんよね。
この部分は明かしても問題ないと思われるので、言及すると、彼は、「事前に」調査をしてきているのです。
この調査結果を、次々と告白させるように仕向けていく、そんな物語です。
ミステリの形式を取った作品なので、ラストには、意外な結末が待っています。
この結末について、私は当初、何かモヤモヤしたものを感じていました。
しかし、鑑賞後、原題から物語のことを考えてみた時、気づいたのです。
グール警部は、尋問をして、真相を暴くために訪れたのではない。
別の「目的」があるのだ、ということを。
さて、原題のInspectorには、定冠詞のtheはついておらず、不定冠詞のanとなっています。
つまり、特定の調査官を示しているのではないことになります。
さらに、callsは、過去形ではありません。
もし、作者がこの物語を過去のひとつの出来事として、題名をつけたなら、末尾は、「called」という過去形となるはず。
現在形というのは、現在だけではなく、過去から現在、そして、将来も、という長い時間軸を示します。
このため、「An Inspector Calls」とは、「(この物語のような事態が起きると)以前から、調査官はやって来たし、今だって、これからだって、やって来るのだよ」という意味になると私は解釈しています。
そのように解釈すると、ラストのオチの意味合いも理解できるように思っています。
【全体評価】
ミステリ作品ゆえ、ラストの部分を明かせず、回りくどい書き方になってしまいましたが、原題の意味の理解に努めていくことで、本作品がとても意味深い佳作であると言えると感じるに至りました。