劇場公開日 1962年10月7日

「男の一念」喰いついたら放すな garuさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0男の一念

2022年2月5日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

 営業車を窃盗団に盗まれ、そのせいで仕事まで失ったセールスマンが、決死の思いで車の奪還に奔走する姿を描いた映画。 タワーリングインフェルノのジョン・ギラーミンが監督した、モノクロのハードボイルドドラマだ。

 ピーター・セラーズ扮する悪徳カーディーラーの社長は、チンピラに新車を盗ませ、傘下の修理工場で改造させて売りさばく非情な悪人。 片や、リチャード・トッド扮するセールスマンは、妻と娘を養う、決して優秀とは言えない平凡な男。 窃盗事件で因縁が出来たとはいえ、それ以上深く関わるはずのない二人が、なぜ激しい戦いを繰り広げることになるのか。 ここが、ドラマの見どころとなる。

 一般人が窃盗被害に遭えば、警察に届けて待つのが普通だ。 しかし、目撃者から犯人の正体を聞き出した男は、警察の杓子定規な対応に不満を持つと同時に、苦労して買った車がもう戻ってこないかもしれないという強い不安を抱く。 男は意を決し、チンピラのいるバーや悪徳ディーラーの会社にまで出向くが、結局、暴力を振るわれ追い返されてしまう。 普通なら、これで完全に身を引くところだ。 しかし、 男は諦めない。

 男にとってこの損失に目をつぶることは、経済的な問題だけでなく、自分の人生を諦めることであり、男の沽券にも関わる問題だったからだ。

 妻は、「あなたはそんな強い男じゃない。 車のことはもう忘れて、危ない真似はやめて。 私は車も仕事もなくていいの」と懇願する。 当然だ。 男も、その言葉で妻の愛情を確認する。 だが、 「ここで諦めたら奴らの思うつぼだ」 と、絶対に車を取り返す決意を固める。 そしてついに、「あなたが行ったら、私はこの家を出るわよ」とまで言って引き留める妻を置き、 男は悪徳ディーラーの元へ車の奪還に向かうのである。

 事件に巻き込まれた平凡な夫婦の心理、そして、男の葛藤と憤懣やるかたない気持ちの高ぶりが、非常に丁寧かつ巧みに描かれている。 役者の演技も物語のテンポも抜群で、映画全盛期に作られた作品ならではの高いクオリティだ。

 男の一念、岩をも穿つー を見事に表現した快作である。

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Garu