私の殺した男のレビュー・感想・評価
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彼らは知っていた。
財布の落とし物。・・そこに住所が書いてあったんで、拾った若者が、気まぐれでその家に持って行った。なぜなら、それがクリスマスだったからだ。そしたらそこのおばあ様が若者を死んだ息子と勘違いして・・・という話をどこかで聞いたことがある。ちょっと調べてみたら。英語圏でよくある小噺だそうだ。
これはその話に着想を得て膨らませたものであろう。またそれだけに。この両親は途中から・・いや、多分初めから彼が誰なのかを知っていたと、私は思う。知っていた。しかし、そのあまりにも恐ろしい訪問を彼らは受け入れられなかった。息子が親友だと思いたかったのだ。・・でも最後に神の裁きを受けることに決めた。・・本当に、この男と、暮らして良いかどうかを!そう。主人公は今まで作り話をしていたのだ。「息子さんとは音楽を通じて知り合いました」と。それしか共通の話題はない。それがあったから話題がいくらでも作れた。・・・・彼らはそれを知っていた。・・・ 神様に訊いてみなければ・・いや、この奇跡は神様の仕業にちがいない・・だからバイオリンを持ってきたのだ・・・
冒頭の教会でのエピソードが実に効果を発揮したラストだと私は感じた。また、この男がバイオリンを弾けるのかどうかっていうのが。一時間経つと記憶があいまいになってくるんだよね。たしかバイオリン奏者とか言ってたよな?・・・。みたいな。だから頼む、弾いてくれ、弾いてくれ・・・弾いてくれ・・みたいな。それが素晴らしいラストシーンになった。ここまで1回もバイオリンを彼が弾かなかったから。彼はバイオリンが弾けるようになって、何かを取り戻したという感覚が伝わってきて。
これはオーヘンリーの賢者の贈り物やディケンズのクリスマスキャロルを彷彿させるレベルの本当の名作だ。世界中の人に見せたい。映画の素晴らしさにその長さは関係はない。ネタがベタだとか、話がストレートすぎるとか、そんなものも関係ない。やはり、要は伝えたい気持ちだ。これにはそれがあった。
ところで、私は何がきっかけでこの映画を見る気になったのかわからない・・その誰か、サンクス!
ルビッチ作品を更に観ないではいられない!
エルンスト・ルビッチ監督で観たのは
「エノチカ」「天国は待ってくれる」
のユーモア優先の作品ばかりだったが、
この「私の殺した男」は
短い上映時間ながらも、
一転して(こちらの方が先ですが)
シリアス優先で深い内容の映画だった。
彼が殺した男の両親が、
勘違いして優しく接してくるシーンでは、
どうして罪を告白しない、
このままでは後でより大きな問題に発展
しかねないし、十字架が更に重くなる
ではないかと声を上げたくなったが、
これがラストシーンへの伏線だったことに、
この瞬間は気付かなかった。
彼の、殺した男の家族と許嫁への登場は、
家族の意識に大きな変化をもたらし、
特に父親の相手国の個人や国民へ
向かう憎しみが間違いだった
との認識にまで導いた。
これも家族の彼への誤解の結果ではあるが、
しかし、勘違いながらも相手への
優しい想いがあれば、お互いの障害を排し
平和をもたらすとの教訓にも思える。
ラストシーン、殺した男の許嫁に諭されて、
御両親の意向に添う決断をするが、
告白と許しを請う想いを封印して
己を捨て他人のために生きるという、
それが彼なりの懺悔であると理解し
別の意味での重い十字架を背負った瞬間
だったのだろう。
こんな素晴らしい映画を上回る作品が
他にあるのか、まだまだルビッチ探索
が続いてしまいそうだ。
追記
レンタルビデオの期間内に再度鑑賞。
最初の鑑賞では認識不足だったエピソード
の理解も進み、より一層涙腺が緩みました。
次の大戦を予感しつつも、
人類の融和を期待するルビッチ監督の想い
に多大な感動を覚え、
星を更に加え
🌟🌟🌟🌟🌟に変更させて頂きました。
コメディだけではないルビッチ監督の知られざる反戦映画の名作
世に知られたコメディの巨匠エルンスト・ルビッチ監督の異色のシリアスドラマの特異な位置にある名作。小品ながら、作品が内包している主題の深刻かつ重大な問題提起の主張力が強い映画。ルビッチ監督の登場人物に対する愛情と理解がひしひしと感じられて、通俗的なヒューマニズムでは収まらないより身近で本質的な、ルビッチ監督の人間的な優しさに深く感動してしまった。監督の特長を知ったギャップの大きさも要因にあるのだろうが、それでもこのような経験は滅多にないものだ。ルビッチ監督が真剣なドラマを映画にすると、その寛容さがジャン・ルノワール監督と変わらない懐の深さを持つことを知る喜びもある。
ドイツの老夫婦と息子の婚約者の家族愛、そこに加わるフランスの青年の誠実なこころが、美しさの極みで描かれていて、見事としか言いようがない。父役ライオネル・バリモアの名演により、この非現実的な物語が、おとぎ話に終わらず正しく”映画としての語り”になって、観る者を説得させこころを揺さぶり、そして戦争と人間について考察させ、最後は許しの境地へ導いてくれる。
黎明期の映画は、単なる見世物小屋のアトラクションに過ぎなかった。しかし、1910年代になると動く映像の可能性に芸術の価値を見出したことで、時間芸術と空間芸術を併せ持つ”第7芸術”という新しい分野を唱える様になった。そして、サイレント映画の初期の名作が続々と作られるようになったが、その同時期にある歴史的事件の最大の象徴が、第一次世界大戦(1914年~’18年)である。映画が何故生まれたかを考えたとき、それは偶然ではあるが、戦争を無くすために生まれてきたのではないだろうか。第二次世界大戦までの間に作られた第一次世界大戦を題材にした反戦映画の名作が、そのことを教えてくれているように、思えてならない。そんなことを考えてしまう、このエルンスト・ルビッチ監督の知られざる名作が、より多くのひとたちと巡り合うことを願って止まない。
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