「美女と野獣と悲しき男」キングコング(1976) kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
美女と野獣と悲しき男
WOWOWのキングコング特集にて。
『キング・コング』('33)の最初のリメイク映画。
公開前、撮影用にコングの等身大ロボットが作られたことが話題だった。たしか、どの関節がどう動くとか、本物のように動けるロボットだと説明されていたはず。マスコミを集めて行われたロボットの発表会の様子が、そのまま劇中のコング上陸の発表会の場面に使われると、日本の雑誌は報じていた。
だが、実際にはロボットを使った場面はほんの一瞬で、しかもほとんど動かない。着ぐるみとフォルムが全く違うのでバレバレだ。当時中学生だった自分は、アメリカ映画では着ぐるみ怪獣が珍しかったので、むしろそっちに驚いた記憶がある。
ジョン・ギラーミンの演出は、ベテラン監督らしく卒がない。
まずオープニングがいい。木箱の焼き印文字を大写しして地名を示した後、カメラが引くとそれはクレーンに吊り下げれていて、船に積み込まれようとしている。更にカメラがパンして港湾に従事する男たちがみえてくる。スピルバーグが『レイダース』で似たような演出をしていた。
他にも随所に冒険活劇らしいワクワク演出が見られる。
一行が上陸した髑髏島では、ロケーションだと思われる大自然の景色を効果的に背景に織り込んで、画的な美しさもみせる。
船のレーダーがコングの居場所を示すモニターの陳腐さや、足跡の大きさがマチマチなのは、ご愛嬌。
本作の最大の功績は、ジェシカ・ラングのイントロデューシングだ。
ファッションモデルからヒロインに抜擢された彼女は、当時演技力を酷評されたが、今観るとそれほど酷くはない。
ゴムボートで漂流している登場場面から、ファンタジーのヒロインにふさわしいインパクトを示していて、空気が読めない感のあるキャラクターも合っている。
コングの愛撫への反応が、たまらなく色っぽい。
本作の後、数年間演技トレーニングに打ち込んだらしく、アカデミー賞・エミー賞・トニー賞の三冠女優となったのは立派だ。
物語は、コング登場までか結構長い。
コングを捕獲してアメリカに運ぶ頃にはほぼ3分の2の尺を消化している。
これでも詳細を大胆に省いていて、所々で話が飛んでいる印象を受ける。これを丁寧に描くと、ピーター・ジャクソン版のように長尺になってしまうのだろう。
コングが世界貿易センタービルによじ登るクライマックスだが、そもそも髑髏島で岩山のツインタワーに登っていた場面がないので、登ることに説得力がない。更に、あれをよく登れたな…と感心する。
ジョン・バーキーが描いたポスターイラストがサイズ感を完全無視したド迫力だったため、それとのギャップにも戸惑ったものだ。
余談だが、生頼範義もゴジラシリーズのポスターイラストでサイズ感を無視していて、しばしば指摘された。が、観客を呼び込むためのポスターだからインパクトが強い方が良いし、アートとしての完成度が高いから配給側も認めるのだろう。
そういえば、続編の『キングコング2』の日本版ポスターは生頼範義だったような…。
長髪のジェフ・ブリッジスは、髭面がよく似合う。強そうな男が悲しげな目で哀愁を漂わせる色気では、トム・ベレンジャーとジェフ・ブリッジスが双璧だろう。
コングはスケベでだらしないが、いざとなれば女のために命を張る勇敢な男だった。
美女と野獣の片道の恋は、壮絶なまでの悲しい結末をむかえる。
この世界貿易センタービル屋上の攻防だけで、この映画は観る価値がある。
そして、倒れたコングの脇で泣き叫ぶドワン(ジェシカ・ラング)に人垣をかき分けて駆け寄ろうとしたジャック(ジェフ・ブリッジス)が途中で足を止めたのは、泣きながらもカメラのフラッシュを浴びているドワンの姿に、棲む世界が違うことを改めて感じたからか。
ここに、二重の悲恋物語が構成されている。
この映画の撮影当時、世界貿易センタービルは開業から4〜5年しか経っていなかった最新の超高層ビルだった。エンパイア・ステート・ビルにしなかったことに批判もあったが、時代背景を現代に移したリメイクとしては、世界一の称号を奪取したこのビルが妥当だったと思う。
ジョン・ギラーミンが『タワーリング・インフェルノ』で成功を収めた直後の作品だということも、意図せずとも連続性を感じる。
2001年9月11日、目を疑う光景がテレビ画面に写し出された時にわかにこの映画を思い出しはしなかったが、今思うとこのビルは宿命を負っていたのかもしれない…とは、ロマンチック過ぎるか。
共感、コメントありがとうございます。
ジェシカ・ラング良いですよね。今、見てもドキドキする。。1976年版って、彼女をメインに置いた作りのような気がします。
当時・・・多分1980年。
アジアで最も高いビル「サンシャイン60」が78年に完成して、そのイベントで実物大キングコングが展示されていました(胸から上だけ)。
実際に観た印象が今でも残っているため、76年版キングコングは特に思い入れが激しいです・・・ジェシカ・ラングのチラ見せヌードにも興奮した自分でした。