「ヒロインの最後のつぶやきが真理」雨 Chemyさんの映画レビュー(感想・評価)
ヒロインの最後のつぶやきが真理
パゴパゴ・・・この響きにいやでも南国情緒をかき立てられる。サモアの港、熱帯雨林の島、血のように赤い朝陽の昇る異国・・・。
サマセット・モームの同盟短編小説の映画化。モームの短編は非常に優れていて、とくに最後の1ページまで何が起こるかわからないのが特徴だが、この作品もラストのドンデン返しが見事だ。
自然をそのまま受け入れる熱帯の土着の中で、西洋の宗教(文化)を押し付けるエゴの塊のような宣教師デイヴィッドソンと、ホノルルの娼婦街から流れてきた背徳の女サディとの対峙。神に仕える身でありながら、地元民に「悪魔」と例えられるデイヴィッドソンの宗教(正義)に名を借りた慈悲のない価値観の恐怖を、ウォルター・ヒューストンは抑えた演技で、自己の考えに凝り固まった人間の恐ろしさと愚かさを見事に表現した。
対するサディの人間味溢れる魅力。気位の高さ、表面の強さと反する内面の弱さ、許すことも憎むこともできる人。そして何よりも女としての魅力。フェロモンが匂い立つ娼婦としての彼女と、デイヴィッドソンに打ち負かされ、神に祈りを捧げる聖女のような美しさ。娼婦としては普通の男を、聖女としては宗教家を虜にしてしまう彼女の魅力。演ずるのは30年代を代表するバンプ女優、ジョーン・クロフォード。娼婦と聖女の表情を見事に演じ分け、鳥肌もののサディ像を造り上げた。デイヴィッドソンとサディの最後の夜の緊張感は特筆に値する。2人の鬼気迫る演技が圧巻だ。
そんな2人の演技をより高めるのが、効果的な雨の描写。タイトルにもなっている「雨」は重要なキーポイントだ。冒頭の乾いた土の上に落ちる大きな雨粒を始め、熱帯雨林に降り続くドシャ降りの雨は、宿に閉じ込められた人々の不安感を煽る。激しい雨音と、原住民の叩く太鼓の音のコラボレーションが、人間の奥底に潜む“魔”を呼び覚ますのだ。
そしてようやく雨があがり、血の様に赤い朝焼けが訪れると、その赤い海を本物の血で染めることとなる。最後にサディが真理をつぶやく。「男なんて皆ブタよ。」と・・・。