劇場公開日 2013年4月13日

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「シンメトリー幻想」コズモポリス 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0シンメトリー幻想

2013年4月15日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

知的

難しい

奇才デビッド・クローネンバーグ監督が描く黙示録的スリラー。

最初、僕は本作を飛行機内で観たのだが、機内上映版は幾つかのシーンがカットされていると知って再鑑賞。
はっきり言って機内上映版はズタズタだ。
性と死と痛覚に関わる描写が軒並み切除された、まるでスパイス抜きのカレーみたいな不完全な代物だ。
そちらを鑑賞した方には是非とも再鑑賞を勧めます。

示唆的な台詞や細かな描写も含めて原作にかなり忠実な内容。
株で毎日数十億を稼ぎ出し、預言者とまで呼ばれた主人公が、
床屋へ散髪に向かうわずか数時間で破滅するまでの物語。

莫大な資産を失い破滅へとひた走っているのに苦痛の影は無い。
リムジンの窓越しに見える暴動はTVモニタのように現実味が薄い。
肉欲にすがり、苦痛を嬉々として受け入れる事で生の実感を得る。
この空虚さ。

絵画であれ爆撃機であれ、彼は金を物質に還元しないと
自分が何を稼いでいるかさえ理解できなかったのではないか。
見えもせず触れもできない幽霊のような金。
僕らもまた、その幽霊に生活を激しく揺さぶられている。
朝の味噌汁を啜りながらニュースを見ている最中に
自分の勤務先が一晩で数十億の金を失った事を知るような世の中だ。
こんな世界でどうやって自分の破滅を予期すれば良い?
株式市場の運んでくる未来が現在を蹂躙する。未来は今や目にも止まらぬほどに迅速で殺人的だ。

主演ロバート・パティンソンは見事な配役だった。
彫像のように完璧に整った顔と肉体ゆえ、崩壊してゆく姿がいよいよ際立つ。
ネクタイを失い、上着を失い、均一的な白リムジンは汚され、
電撃を喰らい、クリームを喰らい、髪を刈り取り、己を傷付け、
段々と歪んでゆくその姿。

「あんたは前立腺に従うべきだった。美しいバランスばかり求めた。歪みこそが重要なんだ」

歪みゆく主人公、そしてリムジンの外で展開された暴動は結局のところ、
人間が自然な形へと回帰しているだけだったのか。
流動し続けるものをコントロールするなど、自然を預言するなど、
人間の思い上がりに過ぎなかったのか。
この物語は完全無欠のリムジンから混沌とした異次元へと移行しているように見えたが、
(全く以てクローネンバーグ的)
我々が本質的に異形=不均整・非対称であるとすれば、
果たしてどちらが異次元で、どちらが自然な姿の世界だったのか?

〈2013/4/14鑑賞〉

浮遊きびなご