「要ハンカチ!始めから最後まで号泣。でも爽やかです!」桃(タオ)さんのしあわせ Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
要ハンカチ!始めから最後まで号泣。でも爽やかです!
生きている者総てにとって決して避けて通る事が出来ない老いとその先に有る死の世界。
このどんな人間にもやがて訪れる老いの問題を扱った作品は多数有るけれども、家族の認知症の問題や、その介護に苦しむ人々の姿を描いたドラマ作品や、或いは介護ドキュメンタリーなどが主な題材であるけれども、この作品が特に他の作品と変わっていて更に感動的なのは、主人公のロジャーの家に家政婦として勤続60年の桃さんが、或る日脳梗塞で倒れてしまう事で、現在の雇い主であるロジャーが彼女の看病をする事になる事からこの物語が始まる、2人の友情の物語である点が爽やかで感動的だった。しかもこれは実話が基にあるのだから、尚驚かされるのだ。
彼女の現在の雇い主であるロジャーは彼女が勤め始めた雇い主の孫息子に当たるのだ。
当然ロジャーの生れる前から家族と一緒に暮して来た桃さんは、血縁関係は無くても家族と同じ時間を共有して来ているのだが、しかし、昔から勤めあげて来た古いタイプの彼女の前には家族と同じ時間を過ごしては来ているが、この両者の間には、雇用主と使用人と言う歴然とした壁が大きくあるのだが、彼女が倒れた事で、ロジャーと桃さんとの間に新しい人間同志の友情関係と言うべきか、新しい家族関係と呼んだ方が正しいような、優しさに溢れた関係性が生れてゆくのだ。
言ってみるなら、そうアメリカ映画の「ドライビング・MISS・デイジー」の逆バージョンとも言うべき作品なのだ。
ファーストシーンで、ロジャーの好物である魚料理を熱心に調理する桃さん。
リビングルームでは、出された食事には礼も言わずに黙々と食するロジャー。彼の健康を気遣う桃さんが彼の好物のメニューを最近作らないと文句だけは言う。
そして桃さんは、質素な食事を一人台所で食するのだ。
ロジャーはこんな2人の関係が彼女と自分との関係の当たり前の姿だと思っていた訳だが、或る日、病に倒れた彼女の不在に因って、自分達家族がいかに彼女の世話になり、彼女の働きにより、安楽に暮して来られたのかに気が付いて、彼女の看病を始めるロジャーの姿が初々しく、そしてまた格好良く、彼の桃さんに注がれるその眼差しが暖かいものに変化してゆくプロセスを観ていると、もう私は涙が止まらないのだ。
この2人を演じているアンディとディニーは最高の芝居を見せてくれます。
この2人の名演技を抜きにはこの作品は成立しないと思う。
そして、ロジャーは今迄聞いた事も無い、昔の桃さんの話を聞き、自分の忘れていた子供時代の想い出の数々を思い出す。改めて、桃さんがこのロジャーの家の為に一生を捧げて生きて来た事を知る素晴らしいシーンだ。
彼女は、生涯独身生活を貫いているので彼女の本当の家族はもう誰も生存していない、天涯孤独の身の上で、やがてロジャーとの間には本当の親子以上の親密な関係が生れる姿を観るのは、とても気持ちが洗われるようだった。実の親子でも、介護ウツや、介護疲れや、介護放棄など、家族の崩壊を招き兼ねない一大事なのだが、ロジャーの家族が桃さんを軸にしてまた更に強い絆で結ばれていく姿も有るのだ。こんなに心温まる、優しさに溢れる作品を観られた私は幸せだ。そして私も家族を大切にして、自分の廻りにいる人々に優しく生きて生きたいものだ。ありがとう!桃さん!ロジャー!