「血の繋がりはなくても最高の家族」桃(タオ)さんのしあわせ cheutchinyatdingさんの映画レビュー(感想・評価)
血の繋がりはなくても最高の家族
詳しく内容を書きましたので、あらすじを知りたくない方は、読まないで下さい。
これは李恩霖(Roger Lee)という映画Producerの経験した実話で、そのことを知った映画監督の許鞍華が映画化したもの。
ベネチアとかあちこちで賞を総なめにしてるが、まさに香港映画らしい香港映画。また、私が今年見た香港映画数十本の中ではベスト。香港版DVDで観ました。
今香港では、30万人を超すフィリピンやインドネシアからの家政婦が働いている。これは女性の社会進出が欧米並みで、子供や高齢者の面倒を見るため。このため全く普通の庶民の家で外人家政婦を雇っている。
しかし昔は外人ではなく中華系の住み込み家政婦さんが沢山いた。これはそういう昔ながらの家政婦さんの話。
香港では今、高齢者は自宅でみるという古い習慣が崩れつつある。しかしながらまだ高齢者施設はまだまだ不十分。ここら辺もこの映画はうまく取り上げている。また「老い」「しあわせな人生とは?」も重要なテーマ。
そして香港映画では、血のつながりのない同士の間の家族同様の愛情がよく描かれるが、この映画もこれを重要なテーマにしている。
この映画の前半で、Roger(劉德華)が桃姐(葉德嫻)の入っている老人ホームの他の入居者に「桃姐の契仔か?」と訊かれ「うん」と答える。その時のRogerと桃姐の二人のうれしそうな顔。契仔とは血のつながりはないが、親子同然の関係。(日本語字幕では義理の息子と訳しているが、ニュアンスが伝わらないのでは?)
なお桃姐の発音は、広東語ではtou2 zhe1のことが多いが、ここではRogerたちはtou2 zhe2と呼んでいる。これはzhe1だといかにも使用人ぽいから声調をわざと変化させているのだとのこと。
桃姐は10代から60年以上、梁家の住み込み家政婦。梁家の皆は桃姐を家族同様に扱っている。梁家は、特にすごい金持ちというわけではないが、まあまあの生活レベルらしい。桃姐も若いときは結婚のチャンスもいろいろあったようだが(後半のRogerとの会話でわかる)結局結婚せず既に70歳を過ぎた。
今、梁家はみんな海外移住したが、長男のRogerだけは香港で映画Producer。桃姐はそのRogerの世話をしている。桃姐はRogerが生まれた時からずっと可愛がってきた。後でわかるエピソードからは、少し甘やかし気味だったことがわかるが。
冒頭あたりのシーンで二人とも口数少ない。Rogerが「しばらく牛タン食べてない」って我儘を言う。Rogerは心臓を悪くしバルーン(波仔)手術をしており、桃姐は怒って「なにいってんの。またバルーンやりたいの?」「しばらく食べてなきゃ、そのまま食べなきゃいいじゃない。」と厳しく言う。
ここらへんで、雇い主と家政婦でありながら、この二人が家族同然であることがわかる。でもRogerが可愛いので後で牛タン料理を作っておいてやる。多分Rogerの身体を考えて塩分控えめとかなんだろう。
なお桃姐は料理の名人。素材どころか、しょうゆの味にもこだわる。
Rogerが大陸に出張中に桃姐は中風で倒れ、「私はもう家政婦やめる。で老人ホームに入りたい。中風は繰り返すって言うし。」
Rogerは「桃姐の面倒をみる家政婦を別に雇うから、家にいなさいよ。」というが桃姐の決心は変わらない。
で彼らの住んでいるのは、香港では有名な美孚の団地。Rogerが探して入ってみたのが地下鉄で3つ離れた深水捗の護老院(老人ホーム)。これは、なるべく近くで見つけたいってことかな?(これはよくわかりません。)
ところがその護老院の経営者がなんとRogerの悪友(黄秋生)だったことがわかり、そこに入ることに。
そしてRogerは時間がある限り桃姐を見舞う。映画Producerでとても忙しいのに。
しかしその護老院の設備・環境とかは、お世辞にもいいとはいえない。しかし桃姐は、我慢する。そのうち、他の入居者とも打ち解けて仲良くなってくる。
いい加減なお調子者の堅叔おじいちゃん(秦沛)はいつもうるさい。
謹厳な元校長先生(梁天)はスノーボールを大事にしている。
金姨おばあちゃん(許碧姬)は、自分のことを大切にしてくれる娘(江美儀)を無視して、親不孝な息子のことばかり。それで娘はいつも怒っている。
まだ若い梅姑おばさんは人工透析を受ける為に入所し、逆に年老いた母親が見舞いに来る。
護老院の主任(秦海璐)もいい人。たまに北京語がでることから、最近大陸から香港に来たことが解る。しかし桃姐が「ご家族は?」ときいた時は、何も答えない。色々あったんだろうと想像がつく。
みんな、人間なら当たり前だが、いろんなことを抱えている。
桃姐はリハビリも頑張りかなり回復し、Rogerと外出も出来るようになる。
団地に里帰りし、昔の写真やRogerをおぶったねんねこを、Rogerと二人で見るシーンの暖かさは、たまらない。最高のシーンの一つ。
Rogerのお母さんもわざわざ香港に桃姐を見舞いに戻って来るが、このシーンが笑ってしまう。桃姐はお母さんが来てくれたことに大喜びする。お母さんは「私が入院したとき、あんなにあなたはよくしてくれたんだから。」
しかしお母さんがせっかく高級品のツバメの巣を沢山持ってきてくれたのに、桃姐はお母さんの調理が不十分で、しょうがを入れ忘れていることを指摘する。桃姐は全く遠慮なく、こういうことを言う。
また高級品のツバメの巣や花束、靴下はお土産として有難く受け取るが、お見舞いのお金は頑として受け取らない。
桃姐は誇りをしっかり持っていて、人にはとてもやさしく心遣いをし、他人からの心遣いもしっかり受け止めるが、甘ったれないし、媚びも売らない。
Rogerの高校時代の仲間(台詞からどうも高校のときのバンド仲間らしい)がRogerの家に集まったとき、皆で桃姐に電話する。この時の会話からも、いかに桃姐がお姉さんとしてやさしく彼らを可愛がっていたかも解る。この時の電話では、皆が「桃姐、見舞いに行くからね。」「来なくていいが、食べ終わったら、ちゃんと片付けといてね。」(笑)
旧正月、Rogerは一家の所に行く。桃姐に一緒に来るように誘うが、桃姐はいかず護老院で年越し。(その時主任に「ご家族は?」って訊くんだが、そのときの秦海璐、いい。)一家はみんなで国際電話を桃姐に掛けるが、本当に家族そのもの。
また香港に家族が集まりお祝いの会をする時も、桃姐は家族の中心のように扱われる。
Rogerは自分の製作した映画のプレミアに桃姐を連れて行き、スターたちにも紹介。このあたりのRogerと桃姐、親子?姉弟?大親友?
しかし梅姑おばさんは病気が重くなり転院。金姨おばあちゃんも死んでしまう。この時の娘(江美儀)の悲しみの演技は凄い。
Rogerとお母さんは別に持っていたアパートの部屋を桃姐専用に使おうとか考えていたが、だんだんと桃姐の老いは進み、認知症も始まる。
それに付き添うRogerの寂しそうな顔。
臨終が近いのにRogerは大陸に出張しなければならない。Rogerはもう意識のない桃姐の髪を整え、靴下を直してあげてから出かけて行く。
葬儀はRogerたち家族で行うが、その後もRogerは家に帰ると桃姐が待っていてくれるような気がしてしょうがない。
実は、香港版DVDのオマケにはカットされたシーンが付いていて、葬儀の後、Rogerが桃姐の遺影を抱きしめるシーンがある。これは、涙腺直撃です。