「この映画を見せてくれた神様に感謝!」桃(タオ)さんのしあわせ 鉄飛さんの映画レビュー(感想・評価)
この映画を見せてくれた神様に感謝!
桃さんは果たしてしあわせだったのでしょうか?
孤児の生まれで養父母も日本軍に殺され、13才の時に金持ちの家に買われた桃さん。
家政婦とかメイドとか言う翻訳ですが、「下女」と言う言葉が最も適切です。「奴隷」と言っても良いでしょう。買われてから60年以上も同じ家に仕えてこき使われた人生。同い年の元お嬢様はスープひとつ満足に作れない老嬢です。
恋愛も許されず、勿論子供を産む事も許されず、ひたすらご主人様に仕えた人生。
リハビリの体操をしながら花嫁、花婿の姿を何とも言えない表情で見送る桃さん。
1997年に香港が中国に返還された時、財産をもったままアメリカに逃げたかつてのご主人一家。ただ一人、香港に残ったおぼっちゃまである映画の財務プロデューサーの世話をする桃さん。自分の立場を受け入れ何の疑問も挟まずに一言のねぎらいも無いおぼっちゃまの為に献身的に働く桃さん。
その桃さんが脳卒中で半身不随になってしまいます。おぼっちゃまは洗濯機の使い方もお湯の沸かし方も知りません。そこで桃さんの有り難みにやっと気付いて介護のまねごとをします。ただし安い老人ホームを友人のつてで値切って入れてたまの休みに桃さんを誘うのも香港のチープなレストラン、茶餐庁です。それでも立ったまま食事をさせられて洗濯機置き場に寝泊まりさせられていた桃さんはおぼっちゃまを有り難いとさえ思います。孤独な身の上で家族を持つ事が出来なかった彼女はいじらしいほどの喜びを感じるのです。老人ホームの仲間たちも不幸で孤独な人ばかり。その人たちに比べればおぼっちゃまと交流できる自分は幸せだと感じる健気な桃さん。
雇い主根性丸出しの元お嬢様がいくら金を渡そうと思っても桃さんは拒否します。それでも元お嬢様がくれた飛行機のファーストクラスでもらった靴下は最後の最後まで大事にします。
人はすべからく他人に対して罪な行為をしてしまいます。一人の女性の人生を当たり前の様に台無しにしてしまった金持ち一家。いくら罪滅ぼしをしようと思っても桃さんの命はもう長くはありません。
彼は気付くのが遅すぎたのです。
この映画は単なる心暖まる美談ではありません。人が人である為に何をなすべきかを問いかけていると思いました。