「哀しみの日々が続いても、人は必ず、いつか人によって救われる」思秋期 Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
哀しみの日々が続いても、人は必ず、いつか人によって救われる
この映画、おそらく主人公のジョセフにとっては、唯一の親友であるだろう飼い犬を怒りの余り蹴り飛ばし、内臓破裂させ殺してしまう衝撃のファーストシーンに始まり、前篇から異常に重~い物語の展開にも、関わらずどどっとこの物語に完全に引き込まれて観入ってしまった。
失業と最愛の妻を5年前に失ったジョセフ、その妻に優しく成れずに、決して良い夫ではなかった自分をジョセフは許せず、後悔の念に苦しみ酒浸りの日々を送り続けている。
そんな自分の生き方を許せないが、それでいてその生活を改め、出直す程の勇気も、気力も失せて、自分自身をコントロールする自制心も持てずに、日々怒りの中へ埋没する
ジョセフの姿を観るのは辛いのだが、そのやるせない、怒りの矛先を何処へもやり場を失った人間のその内面に抱え込んでいる心の痛みが、嫌という程に我が胸に突き刺さって来る。しかし、こうした心の負の部分を描いている作品を観ていると、観客であるこちらも、どっと心の闇の底無し沼に填まり込む。そして表面的には何の怒りも無いかのように描き出すハリウッド映画までもが、恨めしく
腹が立つ。
民族紛争や失業と言う様々な困難を抱える英国の実状を浮き彫りにするイギリス映画は重いのだが、非常にナチュラルな人間感情を描いているので、私などはドップリ感情移入する。只お前も暗い奴だと言われればそれまでなのだが、何も好き好んで、自腹で気分の滅入る映画を観る事もなかろうにと思うのだが、やはりこう言う映画も好きなのだ。きっとこの映画には太宰治も真っ青だ。
蓄積した煮えたぎる怒りを何処へも、処理出来ないままに生きなければならない事こそ、正に生き地獄で有る。
この作品を観ていると、人間が本当に内面に秘めたる怒りの行き着く先は、何処にあるのだろうか??!!
人に話し、理解してもらい、許して貰える事が可能で有るのなら、ジョセフの様に此処まで苦しむ事はないだろう。
そして、またハンナの夫のDVの凄まじさ、これも観るに耐えられなくなる。
ジョセフとハンナの間に生れる新たな人間関係修復への希求の想いも納得だ。
そしてハンナはついに夫に対するその怒りをぶちまけてしまう日が終盤巡ってくるのだ。
絶対に人を傷つける事は、人としてしてはならない事だが、自分がもしハンナの立場であるのなら、ハンナと同一行動を決してする事など無いとは、断言は出来ない!
自分の人生の中で希望を失い、後悔と罪悪感に打ちのめされ、生きている事の何にも幸せを見出せずに生きる人間の悲哀が胸を打つのだが、人は人に因って傷つくが、また同時に人に因って救われる。罪を償い再生の道を歩み出すハンナ、そしてその彼女を見守る事で救われて行くジョセフ、心に最後にはほっとささやかな光明が灯るこのラストは絶品だ!