死刑弁護人のレビュー・感想・評価
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マスコミは弱者を痛めつける!という言葉が重い
カレーがメインになってる作品だが、安田弁護士の資格を取るまでの学生運動の映像、それに苦労して資格を取ってからの最初の事件が彼の原点だ。山谷における労働者が元締めの暴力団に賃金をピンハネされ、警察へ訴えても、労働者が逮捕されるといった理不尽な70年代の話。もしかするとこのエピソードが最も正義感ある社会派ドキュメンタリーだったりして。
担当事件、まずは和歌山毒物カレー事件。動機がないという点で弁護するが最高裁では死刑判決。詐欺を繰り返し8億も稼いでいる金の亡者なのに、金にならない無差別殺人をするはずがないという論点だ。結果、死刑確定。再審請求中。
新宿西口バス放火事件の丸山。人間性善説に基づいているのか、彼の人間性を信用して無罪を主張するが、結果は心神耗弱のため無期懲役という判決。刑務所に入って11年経ち、受刑者からのイジメに遭い自殺。
名古屋女子大生誘拐事件の木村。出自に差別部落という差別があった事実はあったが、寿司屋を開業しようとするもギャンブルにはまり、借金苦で誘拐を思いつく。女子大生を誘拐し、窒息させてしまい、判決は死刑。刑が確定する前から死刑制度反対の意思を明らかにするが、恩赦請求を出すも処刑される。恩赦請求よりも再審請求にすれば良かったと悔やむ安田。
光市母子殺害事件。この事件では“悪魔の弁護人”として世間からバッシングを受ける安田弁護士。現在もまだ再審請求中。
そしてオウム真理教事件。弁護士会からの依頼で麻原の国選弁護人を引き受ける。裁判が始まってから2年半、強制執行妨害として安田自身が逮捕される。罰金50万円の有罪判決が下されるが、検察側のメンツを立てつつ、禁固にはならなかったおかげで弁護士資格は奪われなかった。
死刑制度反対の立場をとる安田弁護士。批判も数多くあるが、安田自身は「法廷は事実を争う場であり、死刑廃止を法廷で訴えるとしたら弁護士失格だ」と主張する。さすがに被害者遺族のことを考えると、もろ手を挙げて反対の立場を取ることもできない。
特に和歌山カレー事件、光市母子殺害事件の弁護が印象に残る。本当に無垢な人間による冤罪ならば支援も多いのだろうが、他の事件も起こし極悪人の印象しか残らない被告人を弁護することの意義を考えさせらる。しかし、誰かが弁護人をやらなければ裁判が成り立たないもどかしさ。さらに横ベン(懐かしー)みたいな売名行為で名乗り出てくる弁護士もいるから困ったもんだ。
【2019年ケーブルテレビにて】
究極の弁護士
2012年という、少し前の作品である。
自分は今まで、安田弁護士のことを知らなかったが、映画館はほぼ満席で、関心の高さを伺わせた。
一言で「死刑弁護人」と言っても、様々なケースがあって、事案は決して同じではなかった。
自らの罪を認めていながら、不幸な生い立ちと、死刑廃止を訴える死刑囚。
死にたいと語る、“心身喪失”気味の無期懲役囚。
弟子に犯罪を命令したことを否認する、新興宗教団体のボスの死刑囚。
詐欺師ではあるが、殺人は否認する死刑囚。
マスコミの報道“だけ”見れば、決して“弁護に値しない”被告たちである。
安田弁護士は、映画の時点で、刑事・民事合わせて50件以上を抱えていたが、そのうち8件が死刑案件だという。
“真理”や“司法の正義”や“人権”を求めるのであれば、死刑案件である必要はない。
「新宿西口バス放火事件」では、頼まれてもいないのに、自ら出かけていったらしい。
もはや「反権力」の領域すらも超えた弁護活動だ。
活動の根本には、「死刑廃止」の思想があるようだ。
それが実現できないから、“次善手段”として、死刑にさせないように法的に抵抗しているように見える。
だから、冤罪や“更生”の可能性は無いと言っていい、オウム事件の麻原彰晃でさえ、弁護の対象となる。
「(麻原は)自分はやっていないと言い続けたから」と。しかし、安田弁護士自身、どれだけ麻原の言葉を信じていたのだろうか?
最後まで観て、「光市母子殺害事件」に限らず、「死刑廃止」のために活動していると批判されても仕方ないところがあるように思わざるを得なかった。
冤罪の疑いのあるケースは別として、(特に死刑判決を望む)被害者の遺族にとっては、たまったものではないだろう。
しかしその一方で、誰もが見放すような案件にも敢然と立ち向かって、単純な善悪を超えた“法による最後の砦”として活動している姿には、敬意を払わざるを得ない。
「和歌山毒カレー事件」の林眞須美被告は書く、「日本には先生しかいません」と。
このドキュメンタリーは、そういう“究極の弁護士”の姿を、克明にとらえている。
結論は、観る者に委ねられている。
勇気ある試みは意義があるけど、応援はしたくない
一見、スティーブン・セガールあたりが大暴れしそうなB級アクションを想像しがちなタイトルに反し、中身は真逆のガチガチの社会派ドキュメンタリー映画である。
主に凶悪事件の被疑者の弁護を担当し、死刑を回避させようと奮闘する弁護士・安田好弘の活動を膨大な記録とインタビューを交えて取材している。
和歌山毒入りカレー事件、新宿西口バス放火事件、オウム真理教事件、光市母子殺害事件etc.etc.どれも多くの人命が奪われた残虐な事件ばかりで、胸が痛くなるが、毎回、記者会見に冷静な語り口で臨む安田氏の言動に以前から興味があり、劇場に出掛けた
人を人とも思わない稀に見る凶悪事件の容疑者の無実を訴える姿は、“悪魔の弁護人”と呼ばれても致し方ない。
バッシングを受けようが、死刑反対を叫び続けるブレない闘志は、罪の深さを理解したうえで、マスコミや検察の巨大権力への強烈な反骨精神から生まれている。
全ての情報を鵜呑みに先走った感情論で死刑を求める大衆へのアンチテーゼとも云える。
なぜ犯人はこんな惨い凶行に走ったのか?環境や背景に目を向けようとしないのか。
加害者を断罪をすれば全て解決できるのか?
真実は他にもあるのではないか?
etc.etc.事件に対する可能性を命懸けで1人1人に問いている。
林真須美はカレー鍋に砒素を入れたのか?
麻原彰晃は全ての事件を指揮していたのか?
元少年は母子に殺意を持っていたのか?
自分自身も逮捕され、満身創痍になりながらも、
“本当にそれで正しいのか?”
常にクエスチョンを投げかける生き様は、矛盾も多いが、公平な司法を維持するうえでとても必要な存在なのかもしれない。
しかし、死刑を求める光市母子殺害事件の父親を見ると、
被害者には
「そんなもん関係ねぇよ」と一蹴されてオシマイだろう。
絶対に同情されない運命である。
タイガー・ジェット・シンのように、安田氏がヒールで有り続けていく意味を理解するには、あとどれほど命が犠牲にならなければならないのか…。
事件の渦に巻き込まれなければ、答えは絶対に解らないだろう。
アメブロを覗くと、インチキ細胞学者に
「こんなヤツ死刑だ」の声が殺到していた。
映画を観た直後ゆえか、
「そんな簡単に死刑、死刑言うなよ」と
苦い缶コーヒーを啜りながら思った。
では最後に短歌を一首
『裁かれし 命を護る 傷背負い 償いの渦 真実を問う』
by全竜
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