「砂漠で夢を釣る」砂漠でサーモン・フィッシング 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
砂漠で夢を釣る
何とも可笑しなタイトル。
砂漠で? サーモン・フィッシング? 鮭釣り? 砂漠で?
おとぎ話のようでありながら、驚きの実話!
アラブの砂漠で鮭釣りがしたい。
イッテQもしくは電波少年の企画?…いえいえ、イエメンの大富豪(シャイフ)の真面目な依頼。
英国と中東の関係緩和の為、国家プロジェクトにまで発展していく…。
外務省の思惑やら中東情勢やら社会派テーマが散りばめられているが、身構えて見る必要ナシ。
政治視点ではなく個人視点のハートフルドラマとして描かれ、とても見易い。
この荒唐無稽なプロジェクトを任されたのが、水産学者のフレッド。私生活では仕事優先の妻に相手にされず。
人が火星に行くくらい無理!…と最初は否定的だったが、次第に打ち込むようになっていく。
フレッドにプロジェクトを依頼したのが、シャイフの代理人で投資コンサルタントのハリエット。私生活では付き合い始めたばかりの軍人の恋人とラブラブ。
ところが、恋人が戦地で行方不明になり動揺するが、フレッドと鮭プロジェクトが支えとなっていく。
満たされぬものがあったり、悲しみがあったり…。
途方もない夢がそれらを大きく包み込む。
少々皮肉屋で変わってて、純真で…。
ユアン・マクレガーはどんな色にも染まる。
本作では彼の素が垣間見えた気がした。
有能なキャリアウーマンの傍ら、恋人の安否を気遣う女のか弱さも見せ…。
エミリー・ブラントが魅力的。
話に絡む他の女性二人が癖があるので、余計そう見えるのかも?
政府の広報官クリスティン・スコット=トーマスがいい感じでシビアなスパイスを加入。
映像も音楽も美しく、名匠ラッセ・ハルストレムと「スラムドッグ$ミリオネア」のオスカー脚本家サイモン・ボーフォイが遺憾なく手腕を発揮。
一つ何とも言えないのが、フレッドとハリエットの関係。
二人が恋に落ちる様はちょいと出来過ぎ。あれじゃあ軍人の恋人が可哀想。
だけれども展開に嫌味はないので、何だか複雑な気持ち…。
シャイフに魅了される。
大変な夢想家ではある。
が、思考・信仰共に高潔で、名言も数々。
突拍子もない夢を持つ事は馬鹿げているのか?
否!
夢とは、持ち、追い続けるもの。信じ続けるもの。
例えそれらが挫かれ、流され、挫折しようとも。
ハートウォーミングでロマンチックでウィットに富んで、政治風刺や思わぬサスペンス要素も。
イギリス映画らしい上質なワインのような好編。