「華麗なる王宮。」王になった男 ブンガクキョウさんの映画レビュー(感想・評価)
華麗なる王宮。
ストーリーはわかりやすく、すぐに引き込まれる。
イ・ビョンホンの映画は見たことがなかったが、彼、なかなか目に力がある。
冒頭、毒が入れられた疑いのある器をひっくり返す暴君の演技は、まるで自分が毒味係になって平身低頭しているかと思うほどの恐ろしさ。
15歳のサウォルの蒼白な顔、
「飲めません、殺してください!」
飲めば死ぬはず、死ぬのは同じなのに殺されるのはよいのか?
でも、これは矛盾ではなかった。
サウォルがキーパーソンとなるこの映画。薄幸な彼女の運命に涙する。
注意虚しく毒を盛られた王は密かに寝かされ、顔にまで針を打たれる。沈痛な表情の都承旨、一計をめぐらす。
ここからイ・ビョンホンの変わり身のスタート。
道化役に変わったとたん、溢れでる人間味に観客はほっとするやら、心配するやら。でもそれも計算のうち。
プロだな!
どこの国も同じだよね、陰謀渦巻く政界に、しがらみのない身代わりの王、ハサンが起こす騒動の数々。
よい法律の施行、「謀叛を起こした」義兄の放免、残忍で計算高い大臣たちへの容赦ないたんか。
美しくも哀しい王妃に、笑顔を見せろとおどけた顔をしたり、靴を蹴飛ばして護衛の目をくらませたり。
小豆粥を差し入れたり、護衛が男泣きしたり。
別の人間だから当然だが、側に仕える人たちは王を「変わった
」と言い、食事は明るい雰囲気に。
悪法で虐げられ、流れ着いたサウォルへは兄のような思いやりを見せる。
そしてやっぱりばれた胸の傷。悪い大臣は兵を挙げてなだれ込んでくる。
逃げないハサン。都承旨は意味深なことを言う。
平民を讃えたいなら、王になれと。
王になりたいと言うハサン。
そして扉が開かれ、燃え盛る松明を持ったツワモノども。
手荒く衣がはぎ取られて…
上手です。
この上手というのは脚本。
道化役は王のふりをするうちに、王らしい貫禄を備えてきた。威厳ある声色、ふるまい、これはもう王だ。まさに、王になった男です。
ここで、ふたりがひとりになった。
本物と見分けがつかなくなったからこそ、このシーンが生きる。驚かされます。
これを同じ人物が演じるのに、すっと腑に落ちる。演技力の高さはわざわざ言いませんが。
また、この物語は、どんな場所であっても、ひとりの人間が変わることで周囲が劇的に変わるということを表しています。王宮なんて究極ですよね。新しい上司、新しい部下や子ども、異質な人間が入り活動すると、組織や団体、国も、こんなに変わるんですね。
サウォルは、冒頭のシーンでは毒で死にたくないと思ったのに、ハサンのためには死を選びます。もちろんこれはフィクションですが、こういうことは現実でもありますね。
権力者だけが守られるわけではなく、人望のある者が救われる。
現実世界は二項対立ではないけれど、ハサンの影響力の大きさを感じました。
とにかく画面が美しい。
スマートなイ・ビョンホンはスーツもいいけれど、伝統的衣装の見事なこと。
洋服を見慣れた目には新鮮でした。