「籠の鳥」籠の中の乙女 レントさんの映画レビュー(感想・評価)
籠の鳥
プール付きの庭がある豪邸に住む家族。子供たちはその家に隔離されて育てられている。父親からは外の世界は危険だと教えられており、それを信じているさまはシュールであり、滑稽でもある。
父親は大切な子供たちを危険な外の世界から守りたいという思いからの行動なのか、あるいは子供たちをずっと手元に置いておきたいという支配欲からの行動なのであろうか。
この家の支配者は間違いなく家長である父親であり、そんな父親に妻も子供たちも逆らうことはなく父親の言うことを信じきっている。外の世界は危険なのだと。
しかし、長男の性処理のために雇った外部の女性から外の世界の情報を知った長女は父親に対して疑問を抱く。そして彼女はこの牢獄からの脱出を試みるのだった。
家父長制、そしてその背後にある全体主義を皮肉った作品なのであろうか。あるいは単純に親のエゴを描いたシュールな作品と解釈するべきか。極力説明が排されているため観る者の想像力を搔き立てる。
個人的には本作を観て星新一の短編、「月の光」を思い出した。赤ん坊のころに引き取った少女を育てる金持ちの男は少女を溺愛して、部屋に閉じ込め、言葉も教えず、食事も自分からしか与えなかった。少女もそれに満足している様子だった。しかしある時、男は事故で死んでしまい、男の執事が代わりに少女に食事を与えるが男以外からの食事を食べようとはせず衰弱して死んでしまう。
太陽の光を失えば月は輝くことはできない。愛する少女を自分の手で守りたいという男の思いが結局は少女を不幸にしてしまう。強すぎる依存関係は時として共倒れを生むのだ。
父親の言うことを信じきっている長男はもし父親が死ねば生きていけない。それでも一生をあの家で暮らしていくのだろう。籠の鳥が空に飛び立つことなくその一生を籠の中で終えるように。