劇場公開日 2012年4月7日

「原題(『侍の娘』)の方が合っている。」新しき土 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0 原題(『侍の娘』)の方が合っている。

2025年10月22日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

驚く

ドキドキ

カワイイ

クレジットに最初に出るのは原さん。映画の解説も主役は原さんとなっている。
話は、原さんが演じる光子の許嫁である輝雄を狂言回しとして進むが、
鑑賞後に思い出すのは原さん。とてもかわいらしく、美しく魅力的に映っている。

ドイツに
留学して欧州かぶれになり大志を抱いた輝雄が、留学前に決まっていた婿養子に収まることを拒否して、どうなるのかという筋。
 婚約を破棄されたことで光子が活火山の火口に身投げしようとするのを、改心した輝雄が追いかけるのだが…。
 と、筋立ては簡単なれど、なぜ自死するのに、自刃でなく、火口に向かうのかというぶっとびな展開もある(火山と共に暮らす民からの発想か?)。

第二次大戦前夜。
 ナチス・ドイツの思惑、満州への進出をもくろむ日本政府の意図により、制作された映画。だから、人情の機微を見せると言うより、日本紹介の要素が強く、台詞にもその意図が組み込まれ、そこが鼻について評価を下げてしまう。
 脚本はファンク監督と伊丹万作監督によるとクレジットされているが、大筋をファンク監督が考えたのか?
 今回鑑賞したのはファンク監督版。
 ナチス・ドイツでは蔑視の対象となる有色人種である日本人と日本を、”すばらしい国”で、同盟を結ぶに値するという風にまとめ上げられている。

台詞は最小限。
映像で魅せる。

光子の家の庭に、宮島があったり、鹿が歩き回っていたり、岩肌に波しぶきが打ち付けるような海岸があったり、寺かと思うほどの回廊があったり、
横浜に船が入るという設定なのだが、松島のような海を回っているとか、
東京で落ち合っているはずのなのに、阪神電車の電飾が輝いているとか、鎌倉の大仏詣でとか、
日本をある程度知っている脳にはバグる。

でも、そういう整合性を無視すれば、
ファンク監督が、日本で魅かれた映像を寄せ集めたかと思うほど。

富士山をいろいろなシチュエーションで見せる等、様々な観光地。
都踊り?相撲、能、葵祭?、居酒屋、ホテル、和食、雛人形・御所人形、囲炉裏端…。
寺の映像に”神道”との説明はご愛敬。
だけでなく、千枚田、牛にひかせる鍬。
ひたすら打ち付ける波、様々な桜、花。
亀・鶴・鹿・蛙、鯉…。餌のあげ方もドイツ流?
光子の花嫁修業の紹介として、裁縫、茶道・華道、琴、なぎなた、弓。勿論、西洋的なバレエ、水泳、飛び込み、ドイツ語、ピアノ…。

演出は、つい最近までサイレント映画だった影響なのか、大仰なものも目立つ。ドイツ好みか?
 輝雄が帰ってくることを知った光子の浮かれよう。コケて、受けこみに突っ伏すまでもご愛敬。
 輝雄が帰ってくることを知った妹の浮かれよう。歌いだすのではないかと思ってしまった。妹のシーンはもう一つミュージカルのようなシーンもあるが、演じられた市川さんのための演出家?

それよりも、ぶっとび演出。
山登りシーンはどうやって撮影したのだろう。スタント? セット? 編集技で火口にいるように見せたのか?
けれど、原さんも、小杉さんも、ある程度の山登りはしている…。
振袖で山登り!!!
靴下で、活火山を登る!!!
 役者にしろ、スタントマンにしろ、監督が望めばやってしまうものなのか?
 ここのシーンには、円谷英二さんが関わっていると聞く。
 噴火・地震で倒壊する家。後年の『ゴジラ』を思い出してしまう。
 光子を追いかけて車を飛ばす輝雄。
 湖に映えている木々。そこを泳いでいく輝雄。
 活火山の山肌。ちらちらと地面の下には赤く燃え上がるものが。立ち込め、吹き上がる水蒸気。そこを必死に靴下で登る輝雄。
 そんな輝雄に気が付かず、ひたすら振り袖姿、しかも手には婚礼衣装で、登る光子。
 太陽をバックにしたシルエットは、仏の如く神々しく。
 鬼・仏の幻影。
 そして、地震、噴火。
 『ゴジラ』や『ウルトラQ』などを彷彿としてしまう。

これを見たゲッベルスは日記で「日本の生活や考え方を知るのに良い」と評価する一方で、「我慢できないほど長い」と不満を述べている(by Wiki)。
 確かに。
 2020東京オリンピックの時に流れたような、日本紹介シーンが続く。
 山登りシーンも長い。
 だが、ここに移っているのは戦前・昭和11年あたりの日本。アーカイブ映像として興味深い。あのホテルはどこだろうとか、あのお相撲さんは誰なのかとか、トラクターって、この時代にもうあったのかという発見も。
 そして山登りシーンは上記のように、円谷さんの仕事に見入ってしまう。
 かつ、冒頭にも記したが、原さんの美しさ。一見の価値あり。

雪州さんにも気分は爆上がり。
 ハリウッドで一時代を築いた役者が、ナチス・ドイツが作る映画に出ていて良いのかという疑問はさておき、そんなことを払しょくするくらいに世界的な役者であったのであろう。
 ひとり親だからと、光子に寄り添って教育する姿。完璧。弓のシーンなど、雪州さんの堂々とした姿の後ろで、見よう見まねで弓ひく原さん。その姿がまたかわいらしく、微笑ましい。
 独特の日本語の言い回し。舞台役者のようだ。父としてという雰囲気と、口説かれているような言い回しの間がなまめかしくも、包容力も感じられ、不思議な魅力に陥る。

輝雄の母の常盤さんは、地方の農作を営む妻のいで立ちでありながらも、どこか品が良く。それでいて、とても自然で。すごい役者だ。もっと見たかった。

輝雄を演じられた小杉さんは、髪の毛を書き上げる姿が、ちょっと鼻につくが、どことなく憎めない。芝居がかった演技と自然な演技とのバランスが絶妙。

と気分がのってくるのだか、ラストは兵隊のアップで終わる。戦争を前提にしたドイツへのメッセージ。
ここでいきなり、この映画の意図に引き戻されて、評価が一気に下がる。

とみいじょん