「ある一点のせいで残念。」ONE PIECE FILM Z Aoさんの映画レビュー(感想・評価)
ある一点のせいで残念。
大海賊時代の海軍側の内面が描かれている貴重な作品。
ONE PIECEの良さは登場人物の人間臭さにあると考えていますが、今回主となるゼファーという男の人間性がまたかっこいいなと思いました。
正義を貫き信念を持った男がなぜこのような超過激派へと変貌を遂げたのか。
正義とは何なのかを深く考えさせられる映画でした。
最後のゼファーと海軍の大決闘。
流れる軍歌は涙しては観られませんでした。
海軍一人一人の正義の片鱗が見ることが出来たのも嬉しかったです。
同期であるゼファー、ガープ、センゴク、つるの4人が活躍する時代の話も観てみたいと、深掘りしたくなるような作品でした。
ただ、このストーリーの根幹の結末が『老い』による敗北というのがどうも引っかかってしまい、心の底からは楽しめませんでした。
なぜ『モドモドの実』という触れたものを12年若返らせるアインが腹心にいながら、彼は全盛期の頃まで若返っていなかったのか。
海賊の殲滅、海軍への裏切りを図るなら、若返りは必須事項だったと思います。
ゼファーともあろう男がそれをしないはずがない。
ましてアインも「先生、先生!」と慕うほどなら、それをやらないはずがない。
ビンズも忠実ならそれぐらいのことは働きかけろよと。
映画の尺の都合、彼にはあそこで死なせないといけないという大人の事情があったんだなと思いました。
そのため、正義のため、信念のためと生まれてきたゼファーという男は最後の最後にご都合主義で殺されたんだなぁと冷めてしまいました。
アイン、ビンズもよう抜け抜けと墓の前で泣けたなと。
ある意味やるべきことをやってなかったお前らのせいやんけと、ゼファーに感情移入していただけに怒りすら覚えました。
アイン、ビンズが殺したも同然、もっと言えばゼファーが自害しに行ったも同然。
さらに言えば、鈴木おさむによって生まれ、鈴木おさむによって殺されたんだなと思いました。
ストロングワールドのシキは全盛期から遠退き、インペルダウンに幽閉されていたこともあるので、敗因も『老い』かなぁと思うことができました。
この作品においては、『老い』だけは理由にしてほしくありませんでした。ガッカリ。
合理的かつ論理的に考えれば、アインの能力で若返ることが最善であると言えます。
しかし若返ったところで仲間はゼットを信頼するでしょうか?我々観客は、そうまでして目的に執着するゼファー先生を観たいでしょうか?
多分、ゼットは「本質的」に強く在りたかったのだと個人的には感じました。過去は悲惨すぎて目も当てられない、でもそれは間違いなく自分の一部であり、否定する訳にもいかない。
下手をすると若返りは「近道」なんですよね。年の功の信念の無い、若者が冒してしまいなちな「失敗」と取られる可能性もあります。
あくまでも「現在」の自分に出来ることは何か?あれこれ悩んだ結果がスマッシャーであると思いました(逆にスマッシャーが興行的な面のご都合かもしらません)
今の自分での最善で行く、それこそがゼファーの最後のプライドであり、信念であると感じました。酸いも甘いも知った今の自分だからこそと。過去の否定はしないと。
メタ的にいえば、こういう人間臭い悪役だけど悪ではない年寄りが、若返りという反則染みた手段を取ると一気に「目的への説得力、カリスマ性」が冷めてしまうのもあると思いますね。
あとやっぱりワンピース世界自体が「老い」は重要な要素ですので…