「大人に向けられたアニメ作品」虹色ほたる 永遠の夏休み R41さんの映画レビュー(感想・評価)
大人に向けられたアニメ作品
テーマの一部に諸行無常的な「別れ」という宿命を乗せている。
2012年の作品
アニメらしいファンタジー
ダム工事によって沈んでしまう村
最後の夏 夏祭りに向けてする準備
そして村を去る人々
さて、
のどが渇いた老人に水を飲ませる少年ユウタ
昭和56年にタイムスリップ
昔ばなしのように展開する物語だが、感動が抑えられなくなる。
ユウタの父 交通事故死という忘れられない過去
迷い込んだのは自分だけだと思い込んでいた。
垣間見てしまうサエコの正体
兄の交通事故死 その原因となった父のバイクと車との事故
現在意識不明のサエコ
彼女が望む「死」 兄との邂逅のため
彼女の選択にはユウタと同じ「諸手続きにかかる時間」が必要だった。
そして、ダム湖に沈む前の「蛍が丘」という場所 聖地
しかし、
ケンゾーは、ユウタより35歳も年上なのが気になる。
また、記憶を消された者同士の再会のシーンはいささか急ぎ過ぎている。
生きる決心をしたサエコの目が失明している設定は良かったが、彼女との再会に工夫が欲しかった。
「オスのホタルは運命の相手を探すために光る」のであれば、二人の再会はもっと特別であって欲しかった。
さて、
神のような老人 聖なるものは不滅なのだろう。
蛍が丘という聖なる場所がダムに沈んでも、そのパワーは変わることがない。
あの場所は、そもそもサエコのために用意されたのだろう。
視力を失っても生きるのか、それとも生きるのをあきらめるのか?
生きることができるのにあきらめる選択をしたサエコに、あの老人には「諸手続きの時間」が必要だったのだろう。
ユウタの諸手続きはついでだと思われる。
サエコの心の内と父の事故
生きるのをやめる選択をしたサエコに、ユウタはひどく狼狽える。
サエコは、自分の選択に少々時間がかかる諸手続きをただ待っている。
しかし突然現れたユウタと過ごすうち、兄のことを忘れていることに気づく。
そうなってしまう自分が「間違っている」と思う。
祭りで着る浴衣は、サエコにとっての白装束だろう。
楽しいはずの最後の夜 夏祭り 花火がとても寂しく感じる。
子供たちでにぎわう夜店に、いたたまれなくなって去る。
ユウタはサエコを追いかける途中にあの老人を見かけたことで、この日がサエコの最後の日だと知る。
「絶対逝かせない」
ユウタは「虹色ほたる」に願いをかなえてもらおうとサエコの手を引き秘密の場所へ向かう。
この物語のもう一つのテーマが、「生きる希望」だと思う。
サエコにとってたった一つの希望が、記憶をなくしてもユウタに見つけてもらうこと。
そのためだったら、失明しても生きる価値を見出せる。
しかし、
失明という代償は大き過ぎる。
最後にあの老人によって奇跡が起こされるが、この物語で描かれている奇跡という「環境の変化」が2012年当時の考え方なのだろう。
ただ、
現代に生きる小さな少女が生きる希望を失うことという設定に心が痛い。
生きることを昭和56年当時の田舎の生活に合わせた設定も面白い。
生きる希望をなくした少女に「生きろ」と必死になって伝えようとする12歳の少年の純粋さも泣けてくる。
この純粋さがサエコに生きる選択をさせたのだろう。
そんな大切な記憶がなくなったサエコは、どうして蛍が丘のイベントにやってきたのだろう?
この些細な部分をもう少し具体的に描いてほしかったが、全体的にはとても感動した。
自分の中にわずかに残る純粋さが大きく揺さぶられた。
この作品は、大人向けのアニメだと思った。