「驚きがあるから良い。」サカサマのパテマ JIさんの映画レビュー(感想・評価)
驚きがあるから良い。
サカサマで空を恐れるパテマ。管理者に抗い空に憧れるエイジ。
両者は偶然出会い、パテマは空の美しさを、エイジは落下する恐怖を知って、互いに相手を理解する。だが、アイガを管理するイザムラとの戦いの末、真の地上に行き着き、逆さまだったのはアイガであったと知る。パテマとエイジは嬉々として、初めて見る地上世界を見渡す。
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ポスター見た時点では、男女の子供が抱き合ってるの可愛いよね、ていうのを描きたいだけの魂胆で、その口実としてのサカサマなのかと半分疑ったんですが、観てみると違いました。
「サカサマ」の面白さを積極的に追求しているし、メッセージ性もある、バッチリ内容の濃い作品です。
テーマは異なる価値観の相互理解、そして世界認識の転換でしょう。
現代は多様な価値観が認められつつありますが、しかし、異なる価値観を真に理解するのは容易ではない。理解できていないことを自覚することすら難しい。そんな危うさに気持ちよく気付かせてくれました。
エイジの視点で観るイザムラは、価値観が倒錯したまま固まった大人達の風刺に見えますが、実はエイジもパテマの気持ちを理解できておらず、認識が甘かったことを知ります。
そしてラストのパラダイムシフト。世界認識を再度ひっくり返し、解った気になっていた観客に一喝します。
イザムラが露骨な悪役すぎて、ちょっとセンス良くは見えませんでした。特に顔の描写が露骨でダサい。変にエモーショナルだったり、嫌な悪人ということは分かり易くなっていますが、ダサいものはダサいです。
最後、空に飛んでいっておそらく死にましたが、彼が地上の存在を知ってどんな反応をするのか、めちゃくちゃ描きどころだったのにあまり細かくは描かれず、ちょっと残念です。
…まあ好みの問題でしょうか。
人工の空の飛行船で、エイジとパテマが見つめ合うシーンについて。「こんな顔だったんだ」というセリフは、二人が初めて同じ向きから相手の顔を見たということを意味し、と同時に互いの感じる気持ちが真に通じ合ったということを意味し、かつ恋愛感情も示唆している複合的な意味のある見せ場でしたが、やっぱりパテマが逆さで、エイジ視点のため、ちょっと分かりづらい。カメラを横にして両者の顔を同じ向きに撮る、ではだめだったのか。作り手じゃないと分からないとこかもしれませんが。
でもここの一連のシーンは感動しましたし、好きです。
他にもBGMのこととか、構図とか、ちょっと好みでない所もあるけど
でも、やっぱり新鮮な驚きを得られる素敵な映画だと思います。