「不思議とリアルな家族関係」おおかみこどもの雨と雪 六畳半さんの映画レビュー(感想・評価)
不思議とリアルな家族関係
“細田守監督の最新作”それ以外には何の前情報もなしに劇場へ行きました。
監督の作品は『時かけ』『サマーウォーズ』を視聴済みです。若干話を忘れてますが。
良い映画です。視聴後は、前二作同様に朗らかな気分になれる映画だと思います。
狼と人間の混血児を持った母親の育児体験記という、いささか大胆な設定のお話なのですが、その実、意外とリアルな現実の親子像・家族像を表現しているんじゃないかなあと思い、共感出来る点も多かったです。
特に、雨と雪が全く正反対の道に進むというストーリーは、実際自分も兄とは大きく違う事に興味を見出し、衝突もしながら別々の道に進んだ経験があるので、とても共感が出来ました。
他にも、親の意志に反して成長してしまう子供の姿であるとか、気づかない内に身も心も大きくなってしまう子供の姿であるとか、こうした一般的な親子関係が、狼と人間の混血児という大胆な設定によって強調しながら表現されています。
一方で、少々不可解な点もいくつか。
まず、雨が山に入るのを何故そこまで花が嫌がったのかです。
そもそも、狼でも人間でも、どちらの選択も出来るように人里離れた山奥に居を構えたのではなかったのでしょうか?
だとするなら、花はそうした雨の選択を尊重できるはずです。
仮に咄嗟の親のエゴで快く思わなかったとしても、当初は“先生”に対しても挨拶に行くなど理解を示していた描写もあった訳だし、あれほど必死になって(雪の存在を完全に放っておいて)山の中を探しに行く理由がよくわかりませんでした。
また、後半にかけて展開が早くなり、小学校卒業で話が終わってしまうのもちょっぴり尻切れトンボな気がします。
さぁ!これから思春期だ!面白くなるぞ!って所で終わってしまうのです。
可能ならば高校卒業くらいまでは描いて欲しかった。そして、雨が山に興味を持つのも中学生とかの方が自然です。
いくら狼と言えども、半分は人間なので流石に10前後で親元を離れるというのは違和感が。
と言っても時間の関係上ここは難しそうですね。
雪が草平くんに秘密を打ち明けるシーンも意外とあっけなかった。
秘密を打ち明けるのではなく、何らかの事件でしょうがなくバレてしまう。
でも実は草平くんは元から雪が狼である事を知っていた、それを黙っていた。
そうした草平くんの心遣いを知った雪は草平くんに心を開くようになる。
こういった展開の方が、すんなり感情移入できる様な気がします。
(個人的な妄想全開ですが笑)
あとは、もう少し花に人間味を持たせても良かったのではないかなあと。
どんな辛い事にも耐えて一人でやり、笑って、可愛くて、あまりに欠点が無さすぎる様な気がします。
普通なら、いや、普通でなくとも育児放棄寸前の所まで行きそうなもんですが、そうでもないのでしょうか?これくらい普通?(子育ての経験は無いので笑)
とまあ、高評価の割に色々書きましたが、全体として大胆な設定を上手くまとめあげていると思います。
やはり、雨と雪がそれぞれ別の道に進もうと選択していく心理変化の過程。
これはそれぞれしっかり描写されていて、素晴らしいと思います。
映像は特段美しいという訳では無いと思いますが、細田監督作品らしく、登場人物達の表情の変化には注目だと思います。本当に豊かな表情を見せてくれます。
宮崎あおいさんの声も違和感が無くかなり合っていると思いました。
スタッフロールで彼女の名前を発見して驚いた位です。
2時間の上映時間はあっという間でした。
見終わったなら、自分の子供時代に思いを馳せるも良し、現在絶賛育児中のお母さんは、育児の活力にするのも良しでしょう。
そういう自分は、雨や雪のように狼モードになりたいなあと思いました(笑)