「ツッコミどころ満載の新解釈「ノアの箱舟物語」」ノア 約束の舟 tolitonさんの映画レビュー(感想・評価)
ツッコミどころ満載の新解釈「ノアの箱舟物語」
先週、「ノアの箱舟」を観て以来、なんだか引っかかっていて、スッキリしないので、頭の中を整理するつもりで書いてみます。
ネタバレ満載なので、まだ観ていない人は、どうぞパスしてください。
でも、興味のある人は、読んでから観てもらった方が楽しめるかもしれません。
有名なお話ですし、結末は最初から決まっているのですから。
知らない人は、予備知識として旧約聖書の創世記のくだりをサラッと読んでから観るといいかもしれません。
「アナと雪の女王」の時も思いましたが、原作にこだわりすぎると矛盾点ばかりが目について、映画の世界に入って行けず、違和感ばかりで楽しめません。
この映画も、旧約聖書の創世記、「史実」として観ると、とにかく脚色が多くまるで設定が違うところが目につき、せっかくの俳優の迫真の演技も嘘くさくなってしまいます。
この映画は、旧約聖書の創世記の「ノアの箱舟」にヒントを得た、ダーレン・アロノフスキー監督の新解釈による、「ノアの箱舟物語」なのです。
監督が、原作を読んで、疑問に思ったこと、想像したことを、映像化してみたら、現実的にはあり得ない矛盾点がたくさん生じてきたので、自分が描きたいヒューマンドラマに必要のないところは、SFファンタジー仕立てにし、神とノアと家族と人間との間に起きたであろう「葛藤」を現代風に再現した映画なんだと思いました。
何と言っても、ノア達の服装からしてズボンはジーンズにしか見えないし(^^;;
見ながらなるほどなと思ったことをいくつかか挙げて見ます。
*創世記では、ノアは600歳で箱舟は、100年かかって家族で作られたことになっているなんて、現実的にはあり得ない。それを現代風にアレンジしてみた?
*昆虫から動物、鳥類に至るまで、世界中の地上の動物一番ずつが集合して箱舟に乗り込むわけだけど、餌とそれを食するもの達が40日間共存するためには、眠らせるのが一番いい。
*神の裁きも洪水も信じなかった人間達が、いざその時が来たら、「蜘蛛の糸」よろしく自分だけ助かろうと箱舟を襲撃して乗っ取ろうとするのは、十分予測できる行為だと思う。
*40日間、ノアの家族は、助けを求めて叫ぶ人々の声を船内で聞きながら、どう思っていたのだろう?
自分たちだけが安全な場所にいて、「神に選ばれた家族」として、けして安穏としていたわけではなかっただろう。
人々の悲鳴を聞いて居た堪れなくなったノアの妻が、「あの人たちを助けて!」とノアに迫るところには、すごく感情移入してしまった。
*神の言葉は絶対で、神に生かされ、神に守られ、神に従うだけでは、「人間」ではない。知恵の実」を食べた人間なら、自分で考え、選択し、行動してこそ「人間」なのだ。
ハムの悔しさを受け入れ、父に秘密を持たせ、復讐を煽る残酷な人間の王の言うことにも、一理あると思ってしまった。
*ノアがセムとイラの子どもを殺そうとするのは、あの時代、神のために我が子を生贄として差し出すのは珍しいことではなかったはずだ。
それは、神を崇める国の万国共通の意識や行為だっただろう。
でも、あれだけ凄惨な人類滅亡の片棒を担いでおきながら、最後に自分の孫娘の命は助けるというのは、ギャップがありすぎだけれど、ある意味、そこでノアは「正気」に戻ったのだと思う。
神託を遂行しようとする時のノアはさながら上記を逸した「殺人鬼」に見えた。
そこまで自分を追い込まないと、人類を滅亡させることなんて出来ないだろう。
最後に、空に虹がかかるシーン。
私は幼い頃、このシーンを
「神様は、ちょっとやり過ぎちゃったかなーと自分でも反省してね、もうこんな酷いことはしないよと、約束の印にお空に虹をかけたんだよ。虹は、神様と人間とのゆびきりげんまんなんだよ。」
と、教えられた。
(私はカトリック幼稚園生だった)
ラストシーンを監督はどんな思いを込めて作ったのだろう。
*この映画では、神はノアに、人類は滅亡させず、生き残る価値のあるものかどうかを選択させたということなのだろうか。
この映画の大きな矛盾点は、ノアの3人の息子のうち、セムしか結婚していないことです。
それも、ノアはイラが子どもを産めない体だからセムとの結婚を許したことになっていて、妊娠したことがわかったら、まるで人が変わったようになり、
「生まれてくる子が女の子ならその場で切り捨てる」と言い、逃げる息子夫婦を執拗に追いかけ邪魔をし、生まれた孫娘達の命を奪おうとまでします。
まるで、助かった自分たちだけが子孫を残すことは、神の命令に背く大罪かのように。
そんな「葛藤」は、ノアという人物像を描く際に、必要なことだったのでしょうか?
ノアが神から託された使命は、人類を絶滅させることではなく、洪水後の新しい世界で、少しでも多くの生きとし生けるものの命が続くように種を保存することだったはず。
ノア達家族は、善良で信心深いところをかわれて、人類の種の保存のための「サンプル」なのであって、その人類の種の保存を断ち切ることこそ神への大罪なのでは?
創世記によれば、箱舟に乗ったノアの3人の息子は全員結婚しており、現在の全ての人類・民族の祖先は、ノアの3人の息子夫婦の子孫が、大洪水後に世界中に散らばって広がったことになっています。
この映画に出てくる人物設定では、人類の祖先のことに関しては、観客に丸投げです。
これでは、ハムとヤペテの子孫に当たる民族からは、バッシングを受けても仕方が無いかもしれません。
ちなみに、日本人はヤペテの子孫に当たるのだそうです。