「スペクタクルの洪水」ノア 約束の舟 ロロ・トマシさんの映画レビュー(感想・評価)
スペクタクルの洪水
ダーレン・アロノフスキーは一作出す毎に全く違うカラーというか、同じジャンルを好まないというか、似通った世界や舞台を二度と選ばないですよね。向上心の塊みたいな人なんでしょうか。毎回違うことをやりたいんですかね。『ブラック・スワン』でバレリーナの世界やって次が旧約聖書のノアの箱舟っていう、全くかけ離れた世界に行けちゃうのが感心します。
何でしょうね。この人の作家性みたいなものって、単純に、一口に言えない部分があって、それぞれの作品が孤立の仕上がりというか、全く同一の評価が出来ない部分がありましてね。当たり外れ、て意味に於いても、ノレるかノレないか、て意味に於いても結構ね、振り幅が大きいというか。
や確かに『レスラー』と『ブラック・スワン』は同じスピリットを持ってる、と言われてはいるけども、でも、やはり手触りは違いますよ。アプローチも違う。どっちが好きか、と訊かれれば間違いなく自分は『ブラック・スワン』が好きだし、この作品から強く衝撃を受けました。『レスラー』の方が好き!て人もそりゃ居ますから、どっちが優れてる!て話は置いといて。
ああ、すいません。話が逸れましたね。
まあ一個一個の作品取り上げて、これはこれ、あれはあれ、て具体的にやってったらキリがないですから。やりませんが。つまり、そういう監督さんなんです。一筋縄でいかないんです。常に描きたいモノ、常に根底に流れるヒューマニティなドラマ性は共通してると思うんですけど。
で、新作『ノア 約束の舟』です。
ほぼ、初めてじゃないですかね?彼が娯楽超大作を手掛けたのって。ファンタジー系列の作品で『ファウンテン 永遠につづく愛』ってのを以前確かに撮ってますけど、ここまで大掛かりじゃなかったです。彼自身が今まで手掛けてきた中で今回が一番規模の大きいプロジェクトなんじゃないでしょうか。
本当ね、これぞハリウッドスペクタクル!て感じですよ。まさに大型映画だからこそ楽しめる視覚効果のオンパレードというか!
物語はね、ノアの箱舟ですから「皆さんご存知の」なんですけど、そこに堂々と向き合って、あのお話の規模のままに、大胆かつ繊細に、そして緻密に描き切ってることに脱帽です。
いや、興奮します。興奮しました。
旧約聖書とか、宗教的とか、神様とか、そういう部分で敬遠しちゃいがちの人も、そこあんまり気にしなくていいと思いますね。まあ、それから生じてくるのか知らないし、自分は無学なので詳しいことはアレなんですけど、日本人にはかなり理解し難い狂気のドラマが後半で展開されたりするんです。するんですけど、そこに目をつむれば神様?的展開は殆ど気にならないです。むしろ視覚効果の渦に巻き込まれることこそを楽しむ映画というか。旧約聖書を気にしなくても楽しめる親切設計というか。また逆を言えば旧約聖書を知ってたら尚更に楽しめる映画でもあるんでしょうね。
でも、ただの大型娯楽って訳でもなくて。やはり泥っ臭い人間ドラマが展開されたりして(理解し難い狂気のドラマを含めて)。そこの塩梅が、ダーレン・アロノフスキー節なんですよね。
こういう作品を撮れる力量を持ち備えてる監督の、ブロックバスター映画って貴重だと思うんですよ。
やー、楽しかったです。