「エンタテインメント性と聖書改変との折り合いの悪さ」ノア 約束の舟 Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
エンタテインメント性と聖書改変との折り合いの悪さ
ダーレン・アロノフスキー監督による2014製作の米国映画。
原題:Noah、配給:パラマウント。
大海原や箱舟、さらに乗り込む動物達(特に蛇とか)のリアリティは、なかなかのものであった。ノアが埋めたタネ1つから、出来上がる森林(箱船の材料となる)の描写も楽しい。
ただ映画全体として、なんか、マッチョな主人公の、出来の悪い古い西部劇を見せられた印象が残った。神の意志に従うことを優先しているということだが、何でこんなに、息子たちに強圧的で、妻にも絶対的な服従を強いるのか?
最後、強き良き家族の長として、妻の愛情も回復し、めでたし・めでたしの感で終わったが、古き良き家長的な米国ファミリーへの懐古趣味、或は偏見だが、無教養な白人男性への媚びの様なストーリー設定に見えてしまった。
そして洪水時、泥の塊の巨人となった堕天使達が、舟めがけて押しかける人間達を、これでもかとなぎ倒し、踏み潰して皆殺しにする描写に唖然としてしまった。まるで、悪を認定した国民への力による暴力を賛美する様で、米国軍による制圧支持をイメージしてしまった。加えて、箱船の製作も殆ど泥の巨人たちが行っており、潜在意識で奴隷制に郷愁を覚えていないかと疑ってしまった。
そして、聖書の設定(4名)と異なり、舟に乗れた女性は妻と息子の妻役エマ・ワトソンのみ。これで、どうやって子孫を増やしていくのか?彼女が産んだ双子の娘が全て担う?何とも不思議な設定変更で、意図するところが理解出来ずにいる。
ただ、ここまで書いてきて、エンタテインメントと上手く整合性が取れていないが、この映画実は、アロノフスキー監督の超個人的な思いを反映したものの様にも思えてきた。何かを強要する横暴な父親との闘い、象徴的であるが親に女性までねだる情けない子供の自分。信じられない内容の聖書との訣別。暴力的で破壊的な米国社会への絶望、沈黙する神との訣別、そして家族から独立し一人旅立つ次男ハム (ローガン・ラーマン)の姿に重ねた無神論者である自分。
製作スコット・フランクリン、 ダーレン・アロノフスキー、メアリー・ペアレント、アーノン・ミルチャン、製作総指揮アリ・ハンデル、クリス・ブリガム。
脚本ダーレン・アロノフスキー、 アリ・ハンデル、撮影マシュー・リバティーク、美術マーク・フリードバーグ、衣装マイケル・ウィルキンソン、編集アンドリュー・ワイスブラム、音楽クリント・マンセル。
出演はラッセル・クロウ、ジェニファー・コネリー、レイ・ウィンストン、エマ・ワトソン、アンソニー・ホプキンス、ローガン・ラーマン、ダグラス・ブース。