ももいろそらをのレビュー・感想・評価
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いづみ人間宣言
いづみは車寅次郎を彷彿とさせるべらんめえ口調の女子高生で、何事につけても茶々を入れずには気が済まないというタチだが、それはそうとホンモノのシニシズムをやるにはちょっと優しすぎる。彼女の皮肉や冷笑にはどことなく余地があって、そこに誰かが噛みついてくれるのを待っているかのよう。というかそもそも人情一本の江戸カルチャーと冷酷無慈悲のシニシズムが折り合えるわけもない。
たとえば、光輝が同性愛者だったことが発覚した際に、いづみが彼に罵詈雑言を浴びせかけようとするシーンがあるのだが、ここで彼女は「ゲッ…」と言いかけて押し黙る。乱暴な言葉遣いの裏面にある優しさがうっかり転げ出てしまっている素敵なシーンだ。
一方で蓮実や薫はかなり実直というか、ホンネとタテマエの使い分けというものがない。蓮実は光輝への好意から、どんなに理不尽なことを言われても二つ返事でニコニコする。薫は金にがめつく、何事にもナアナアの事なかれ主義者だ。そして2人ともそういう自分の浅ましい本性を隠そうともしない。嘘でその場をやり過ごしがちないづみと2人の間になんとなく距離感があるのもよくわかる。
浅ましい生き方しかできない2人のことも、臆面なく恋人を本気で愛している光輝のことも、いづみはなんとなく下に見ている。本作が巧いのは、ここで我々がちゃんといづみに肩入れできるような演出がなされていること。蓮実と薫はバカでがめつくて性格が悪く、光輝もつっけんどんでブルジョア趣味のいけ好かないボンボンとして描かれている。我々もいづみと一緒になって3人を「ウゼー笑」と笑えるようになっている。
私が知らぬ間にいづみになってしまっていたことを自覚したのは光輝の同性愛がいづみにバレるシーン。それまでの不義理を同性愛というある種の弱者性によって打ち消そうというのはちょっとあざすぎるんじゃないの、と私はややシラけてしまった。
しかし光輝は同性愛がバレてしまったことをちっとも恥じないばかりか、いづみに誇示するように交際相手の手を握り締める。あざといとかあざとくないとか浅ましいとか浅ましくないとかいった俯瞰的な審美は、ここで大いなる愛によって跡形もなく打ち砕かれるのだ。
ラストの超ロングショットでは、葬儀場の前でいづみが光輝に向かって懺悔する。「私が一番バカだった」と。皮肉や冷笑の行き着く先は、すべての拒絶、すなわち人間であることの放棄だ。この懺悔はつまり彼女の人間宣言なのだ。
こういうある意味反省会みたいなオチはドラマチックすぎるとかえって興が冷めるものなので、フワフワと画角の揺れるロングショットの中でそれをやるというのはかなりセンスがいいな〜と思った。
和製ジャームッシュとでも形容できそうな不思議な空気感がある映画だった。小林監督の他の作品もぜひ見てみようと思う。
「テメエ、この野郎〜!」ってw
落語噺「持参金」のような因果のめぐり。
いづみはべらんめえ口調で、白酒師匠まで出てくる始末。
ウソをついて何かを埋め合わせしようとすると全体のバランスが崩れて辻褄が合わなくなり、さらにウソで埋め合わせしようとする。
世の中を分かったつもりが、これっぽっちもわかっていない。だったら自分はバカだとはっきり自覚したほうがよっぽどマシな存在でいられるはず。
演者一人ひとりが自然でいきいきと演じ、一人ひとりが若き自分自身を投影していた。
最後は江戸落語の人情噺を聴かされたような爽快感。
【カラフル 1】
(モノクロバージョンに寄せて)
モノクロは、カラーよりノスタルジック感が強いかなと思っていたけど、自分は最近、ガラケーはもとより、紙の新聞に触れることもなくなったので、そんなところもちょっと隔世の感があった。
モノクロは、自分のイメージのなかで彩る分、実はカラフルで印象が強いかもしれない。
(以下、レビューは同じ)
中学生よりは少し大人になって、でも、大人に片足を突っ込んでみると、世の中の嫌なところが目について、場合によっては、打算に縛られて生きていくことになるのかと閉塞感も募る。
進学云々で違いがあっても、もしかしたら、それが高校時代かもしれない。
溢れる様々な嫌なニュースを高所から批判的な目で見ているつもりが、世の中を斜めに見る目は、大人の書いたそんなニュースに大きく影響されていることも多い。
こいつんちは、天下り官僚だとか、その息子だとか。
反対に、自分で良いニュースを集めてみても、決して居心地は良くならない。
きっと、良いニュースと悪いニュースは、バランスしているように僕は思う。
廃業寸前の印刷屋が、病院で請け負った新聞の印刷で復活する。
その中に自分も含めた潤滑油があって、世の中は巡り巡っているのだ。
それを知ることは大人になることだ。
イケ好かない天下り官僚の息子の甘酸っぱい同性愛も、ニュースで取り上げれるようなもんじゃないし、大ぴっらにすることでもないだろう。
良いニュースと悪いニュースの陰に隠れた事実も沢山あるのだ。
「ゲっ、あっ!、ホっ」
いづみは、光輝にゲイとかホモという言葉を浴びせるのを思いとどまっていたじゃないか。
僕はこの場面が結構好きだ。
バカバカバーカばっかり言っていたのに、少し考えらえるようになったのだ。
良いことだ。
でも、考え抜いたアナル・ファッカーはアウトだけどね。
空が想うようにピンクにならなくても、たとえ僅かだけだったとしても、ちょっと世の中にかましてやったと思えたら、それは素晴らしいことのように思う。
そう考えられるようになることも、大人になるということだ。
カラフルな青春。
ヒヤヒヤしてイライラして、ももいろに昇華
シネクイントさんの企画で鑑賞です、気になっちゃって。
小林監督作品は初めてです。オリジナルのモノクロ版の
方を鑑賞。やっぱ、原点を観ないと・・・・ってことで。
10代女子の友達関係ってこんな感じなのか?
なんかイライラするなぁ・・・な序盤の展開だったんですが
(いや・・・この三人の友達関係が最後まで嫌い
・・・いやしっくりこなかった)話が転がっていくほどに、
ストーリーにはしっくりとハマってくるんですよね。
まぁ、今の10代のことを古の10代の僕が想像できる
わけがないのですが(笑)でも、かなりリアルなのでは
ないでしょうか?会話が普段着っぽくて。
演者さんがすごいのか?いやぁ脚本かなー?。
このやりとりを考えられるって、それだけですごいなぁ。
女友達、恋愛、社会への鬱憤、同性愛・・・
というなんともまぁ社会派っぽいテーマを扱いつつ、
展開していく中身が、財布を拾う、新聞記事の採点が趣味
やばいバイト、新聞を作る・・・というなんの接点も見出せ
ないような要素で描くって・・・このストーリーは文字に
するとなんとも突拍子もない、狙っている感たっぷりな印象
なんですが、ちゃんとしている。。。
いや、エンタメ的要素もあり、エピソードがしっかり
帰着方向に向かって走るストーリー作りが
秀逸だなぁと感心です。
グダグダ書きましたが、、、
いや、おもしろかったんですよね、これが。
本作の肝はなんといってもイズミの心情。
イズミの心がドラマになっているんだと思います。
この友達仲間三人は思春期真っ只中の女子の
象徴三人なんでしょうね。一人では描ききれないから
三人のキャラクターに分担させている感じ。
で、ちょっとだけど、ほんのちょっとだけど成長っぽい
姿を見せてくれるのはイズミ。
なんか突っ走るし、簡単に負けるし、喜怒哀楽激しいし
なんか乙女心みたいのも芽生えてるし。
青春してるなぁって。イズミなら友達になれそうだなぁ。
一番素直なんだろうなぁ。彼女観てるだけで面白いです。
それと全編モノクロってのも良いですね。
きっとラストシーンのためかな?って。
カラー版では印象変わるのかなぁ?
何はともあれ小林監督の作品、
たくさん観たくなりました。
鬼才じゃないという珍しさ
岩井俊二みたいな映画、と形容することはできますが、そのじつリリシズムの方向性が違います。また、個人的に岩井俊二は好きではありませんがこの映画は好きです。
この映画の形容を考えました。映画のことは何でも知っていて小林啓一のももいろそらをだけ知らない映画通に説明する場合の形容です。考えたのが『ビルフォーサイスに師事したジムジャームッシュがソフィアコッポラと付き合っていたときに撮った映画』でした。
えもいわれない優しさの映画です。日本映画には絶対になかった情感です。
血も汗も涙もありません。暴力も堕落も残酷も怒号も痴情もAbused Womanもチンピラも、日本の映画監督たちが大好きな素材がいっさい出てきません。だからかわいいのです。かわいいという言葉が伝える、広汎な意味においてのかわいさを備えていると思うのです。
いったい何度、池田愛をググったかわかりません。この女優の愛すべき下手さは、まるで街頭でニューヨークヘラルドトリビューン!を繰り返し叫ぶジーンセバーグのようにフレッシュな映画的魅力がありました。やっぱりサンダンスは信頼できます。
映画は何も起こらないのに瑞々しい断片をとらえています。小さな事件は映画的です。
無欲で、どやと鬼才感がなく、なんのメッセージもありません。ただちょっとした映画になっている──だけです。その野心を削いだ感覚が、俺俺/私私の巣窟と化した新鋭のなかで、どれほど貴重であったことでしょう。
ぼんとリンは反動のようにカラフルでした。逆光のは煮詰まりました。死なない彼女は未見です。ひとつ間違いないことは、この映画はわが国のフランシスハであること、凡百を凌駕していた、ということです。と思います。
なんとなく社会を上から目線で見ている女子高生が、ある出来事を通して...
なんとなく社会を上から目線で見ている女子高生が、ある出来事を通して、自分や周りのことを見つめ直す
無機質で不条理な世界
とにかくヒロインいづみが魅力的過ぎます。
自由奔放なちょっと浮き気味の女子高生のいづみが大金の入った財布を拾ったことによって、物語が始まります。
前半はいづみの自由な感じが観ていて堪らなく気持ち良かったです。
ネガティブながらも自分に自信を持っているという感じ。
ただ、反抗しながらもなんだかんだで蓮実は絶対。
友情をなくすのも嫌だけど、自分らしく生きたいとの狭間でとても生きづらい様子がリアルでした。
後半は金、友情、性、命、等々
ザ・青春といった感じなのに白黒で無機質な世界。
何をやっても信じてもらえず、上手くいかず、友達を傷つけて、自分も傷ついて。
そうやっていくうちに、強がって子供っぽかったいづみも少しずつ大人になって行くような気がしました。
全編モノクロだったのがとても効果的でしたが、最後のももいろの煙は色付きでも面白いと思います。
小林啓一監督だからこそ描けたいづみとこの世界観。
高校生ならではの社会への不満や疑問
とても良かったです。
今度新聞採点やってみます。
新しく、懐かしい感じ
女子高生の友人関係の面白さ・難しさが、男の自分にとっては新鮮。財布を落とした男子高校生が入院中の少年と同性愛の関係にあるというのがやや突飛な設定だが、そんなことを吹き飛ばすほど登場人物が自然でいきいきとしていて引き込まれる。特に主役を演じた池田愛は、長澤まさみや鈴木あみに似たビジュアルで、今後に期待したい。
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