劇場公開日 2013年1月12日

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「鬼才じゃないという珍しさ」ももいろそらを 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5鬼才じゃないという珍しさ

2020年7月11日
PCから投稿

岩井俊二みたいな映画、と形容することはできますが、そのじつリリシズムの方向性が違います。また、個人的に岩井俊二は好きではありませんがこの映画は好きです。
この映画の形容を考えました。映画のことは何でも知っていて小林啓一のももいろそらをだけ知らない映画通に説明する場合の形容です。考えたのが『ビルフォーサイスに師事したジムジャームッシュがソフィアコッポラと付き合っていたときに撮った映画』でした。

えもいわれない優しさの映画です。日本映画には絶対になかった情感です。
血も汗も涙もありません。暴力も堕落も残酷も怒号も痴情もAbused Womanもチンピラも、日本の映画監督たちが大好きな素材がいっさい出てきません。だからかわいいのです。かわいいという言葉が伝える、広汎な意味においてのかわいさを備えていると思うのです。

いったい何度、池田愛をググったかわかりません。この女優の愛すべき下手さは、まるで街頭でニューヨークヘラルドトリビューン!を繰り返し叫ぶジーンセバーグのようにフレッシュな映画的魅力がありました。やっぱりサンダンスは信頼できます。

映画は何も起こらないのに瑞々しい断片をとらえています。小さな事件は映画的です。
無欲で、どやと鬼才感がなく、なんのメッセージもありません。ただちょっとした映画になっている──だけです。その野心を削いだ感覚が、俺俺/私私の巣窟と化した新鋭のなかで、どれほど貴重であったことでしょう。

ぼんとリンは反動のようにカラフルでした。逆光のは煮詰まりました。死なない彼女は未見です。ひとつ間違いないことは、この映画はわが国のフランシスハであること、凡百を凌駕していた、ということです。と思います。

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津次郎